11月29日、エーザイ社は抗アミロイドβ(Aβ)プロトフィブリル抗体レカネマブの早期アルツハイマー病患者を対象とした第3相Clarity AD検証試験の詳細を発表しました。これは、今年9月に発表した有効なトップラインデータを裏付ける結果となりました。しかしながら、第15回アルツハイマー病臨床試験会議(CTAD:Clinical Trials on Alzheimer’s Disease)や医学雑誌NEJMで発表された結果によると、本剤が被験者の認知機能低下を遅らせることに成功する一方で、多くが脳出血や腫脹などの副作用を起こしたことから、安全性に関する懸念がクローズアップされています。
レカネマブ(開発品コード:BAN2401)は現在米国で優先審査中であり、FDAは来年1月6日までに迅速審査プログラムによる承認可否を決定する予定としています。Clarity AD試験では、早期アルツハイマー病患者1795名を対象に、レカネマブまたはプラセボを2週間に1回投与する群に無作為に割り付けました。9月にエーザイ社とパートナーのバイオジェン社は、主要評価項目である臨床的認知症尺度CDR-SB(Clinical Dementia Rating-Sum of Boxes)に基づく認知機能の低下率を、プラセボと比較して18カ月間で27%遅らせることに成功したと発表しています(「KOL Views Q&A」参照)。KOL Views Q&A: LecanemabのクラリティAD勝利の意味について第一線の神経科医が意見しています)。
CDR-SBでの悪化の少なさ
NEJM誌に掲載された論文では、レカネマブはプラセボと比較において、18か月後の脳内アミロイドレベルの低下は、認知機能低下抑制に関連していると述べられています。
Clarity AD開始時の患者のベースラインCDR-SBスコアは約3.2でした。試験期間中、プラセボ投与群の重症化は平均1.66ポイント上昇する一方、レカネマブ投与群の重症化は1.21ポイントとなり、プラセボの重症化がレカネマブを0.45ポイント上回りました。この差は、18か月間でレカネマブ投与群はプラセボ投与群と比較して27%の全般臨床症状の悪化を抑制したことを示します。
しかし、探索的なサブグループ解析の結果、アルツハイマー病の発症リスクを有する患者では、CDR-SB指標においてレカネマブの効果が得られないことが示されました。参加者の約15%がApoE ε4遺伝子変異のホモ接合体であり、53%がApoE ε4のヘテロ接合体、31%がノンキャリアでした。
エーザイ社米国の会長Ivan Cheung氏は「CDR-SBに関しては、ホモ接合体患者という小さなグループには、レカネマブの有効性を示すシグナルは見られませんでした」と述べ、その理由としてプラセボを投与されたホモ接合体患者が予想以上に良好な結果を得たからかもしれないとしました。しかし、ApoE ε4キャリアは、副次的目標であるADAS-cog14およびADCS-MCI-ADLスコアに数値的な改善を示しました。レカネマブ投与群では、プラセボ投与群に比べ、これら2つの指標でそれぞれ26%、37%の改善がみられました。
また、主要な副次的評価項目として、698名の参加者を対象にPETによるアミロイド負荷が調べられました。試験開始時の平均アミロイドレベルは、レカネマブ投与群で77.92センチロイド、プラセボ投与群で75.03センチロイドでしたが、18ヵ月後までの平均アミロイドレベルは、レカネマブ投与群で55.48センチロイド減少したのに対し、プラセボ投与群では3.64センチロイド増加していました。
エーザイ社 薬物との関連性を否定
一方、安全性の問題については、最近脳出血による2名の患者の死亡例が報告されました。10月下旬に報告された1件は、抗凝固剤エリキス(アピキサバン)を投与されていた87歳の男性が脳出血を発症して死亡したケースです。また2件は、数日前に雑誌「サイエンス」掲載された報告によると、65歳の女性が脳卒中を発症し、血栓を除去するために組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)を投与された後に死亡に至ったということです。
エーザイ社は、この2件の死亡は「レカネマブに起因するものではない」としています。エーザイ社米国の会長Ivan Cheung氏は、同社には脳の腫れをモニターするプロトコルがあるため、レカネマブ治療の対象となりうる患者を制限する必要はないと考えていると指摘しました。一方一部のアナリストからは、レカネマブが出血リスクを高めるかどうかは明らかではないものの、同剤と血液希釈剤の併用に注意が必要だという声が上がっています。2人目の死亡例について、BairdのアナリストBrian Skorney氏は「レカネマブが原因因子であるという解釈は行き過ぎかもしれない」と述べ、「この患者は明らかにtPA投与後に危機に陥った」と述べました。
エーザイ社とバイオジェン社は、9月の最初の結果発表で、水腫(ARIA-E)や脳微小出血(ARIA-H)などのアミロイド関連画像異常の発生率はレカネマブ投与群で高かったものの、発生プロファイルは 「予想の範囲内」と述べていました。最新の考察によると、レカネマブのARIA-EおよびARIA-Hの発生率はそれぞれ12.6%および17.3%で、最初の結果発表時に報告された内容と同じでした。プラセボ投与群では、それぞれ1.7%、9%でした。なお、ARIA-EはApoEε4キャリアに多くみられ、ホモ接合体では最も高い頻度でした。
重篤な有害事象はレカネマブ群14%、プラセボ群11.3%に発現し、主なものは輸液関連反応1.2%、ARIA-E0.8%、心房細動、失神、狭心症で、それぞれ発現率は0.7%であり、レカネマブ群では、プラセボ群に比べ2.5%減少しました。有害事象による試験中止は、レカネマブ投与群の約6.9%に対し、プラセボ投与群では2.9%となりました。
また、レカネマブ投与群では約0.7%、プラセボ投与群では約0.8%が死亡し、レカネマブ投与群で6名、プラセボ投与群で7名の死亡が記録されたと記されています。しかし、研究者らは「レカネマブに関連した死亡例はなく、ARIAで発生したものでもない」と考えています。
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Insights4 Pharma編集責任者&情報コンシェルジュ 前田静吾
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