心房細動(AF)の治療市場は、脳卒中予防の抗凝固療法を基盤としながら、薬剤の安全性や価格競争、カテーテルアブレーションの技術革新によって変化しています。
高齢化による患者数の増加に加え、直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)のジェネリック化や、新たな第XI因子(FXI)標的薬の研究開発が、製薬企業の競争環境を左右するテーマになっています。
世界の市場調査では、医薬品に限定した心房細動市場と、アブレーションなどの非薬物治療まで含む市場で、それぞれ異なる成長予測が示されています。
薬剤クラス別の売上に加え、患者の診断状況、出血リスク、治療アクセスを含めて把握することが重要になっています。
この記事では、2026年に発行・更新されたFortune Business Insights、Straits Research、Grand View Research、The Business Research Companyなどの市場調査レポートを独自に調査・比較し、心房細動の患者数、アンメットニーズ、市場規模、2030年代の将来予測、次世代抗凝固薬と非薬物治療の動向を詳しくまとめました。
心房細動治療市場の現状|患者数・アンメットニーズ・市場規模

患者数|世界と米国の疫学・診断動向
心房細動は、心房の電気活動の乱れによって心拍が不規則になる不整脈で、高齢者ほど多く認められます。症状が乏しい場合もあり、脳卒中などの合併症の予防が治療の中心課題です。
世界では約3,750万人が心房細動を有するとする推計が広く引用されています。
一方、2024年に『Journal of the American College of Cardiology』に公表された米国の研究では、2019年末時点の診断済み心房細動成人が少なくとも1,055万人と推計されました。この数字は2026年の実測患者数ではなく、米国の診療データから推計した2019年末の有病者数です。
同じく米国の2019~2023年の大規模医療データを用いた研究では、心房細動の成人有病率が3.89%と算定されました。
研究対象・診断基準・調査期間によって数字が異なり、治療対象人口の分析には診断済み患者と未診断患者の区別が欠かせません。
出典:JACC(2024年)/JACC: Advances(2024年)/Fortune Business Insights(2026年版)
アンメットニーズ|脳卒中予防と出血リスク
心房細動治療では、血栓塞栓症の予防と安全性の両立が主要なアンメットニーズです。
DOACの普及によって脳卒中予防の治療選択肢は広がりましたが、消化管出血などのリスクが高い患者、腎機能が低下した患者、高齢患者などでは薬剤選択が複雑になります。
- 脳卒中予防と出血の両立:抗凝固効果を維持しながら重大な出血を抑える治療へのニーズ
- 診断と治療導入:無症状例や発作性心房細動の発見、適切な抗凝固薬の導入
- 治療継続:長期服薬、服薬遵守、腎機能や合併症に応じた治療管理
- 症状と再発:抗不整脈薬およびカテーテル治療後も残る再発・生活の質の問題
米国の医療データを用いた2019~2023年の研究では、心房細動患者の約3割が抗凝固薬を使用していませんでした。個別の患者には治療禁忌や臨床判断があるものの、治療アクセスと適応評価が市場の重要な課題であることを示しています。出典:JACC: Advances。
2026年の治療薬市場規模|主要調査会社を比較
2026年の心房細動市場について、医薬品のみを対象とするFortune Business Insightsは172.4億ドル、Straits Researchは296.5億ドルと推計しています。
世界市場の規模を比較するときは、同じ医薬品市場であっても対象薬剤や算定範囲が異なる点を踏まえる必要があります。
| 調査会社 | 対象市場 | 2026年市場規模 | 2026年版の主な分析 |
| Fortune Business Insights | 心房細動治療薬(抗凝固薬・抗不整脈薬) | 172.4億ドル | 薬剤クラス、投与経路、販売チャネル、地域別 |
| Straits Research | 心房細動治療薬 | 296.5億ドル | 病型別、投与経路、地域別 |
| Grand View Research | 薬物・非薬物治療を含む心房細動市場 | 325.0億ドル | 治療法別、エンドユーザー、地域別 |
| The Business Research Company | 薬物・非薬物治療を含む心房細動市場 | 171.0億ドル | 技術、手技、治療種別、施設別 |
| Grand View Research(日本) | 日本の心房細動治療市場 | 23.0億ドル | 薬物・非薬物治療の国内市場 |
出典:Fortune Business Insights/Straits Research/Grand View Research/The Business Research Company/Grand View Research日本市場。
Grand View Researchによると、2025年の治療市場における薬物治療の売上シェアは66.68%でした。また、日本の心房細動治療市場については、2026年に約23.0億ドルと推計しています。こうした治療市場全体の数字は、医薬品だけの売上と同一ではありません。
心房細動市場の将来予測|2030年代の成長と新薬開発

2030~2034年の市場予測|主要調査会社の見通し
各社の2026年版では、心房細動の治療薬市場および治療市場が2030年代に向けて拡大すると予測されています。Fortune Business Insightsは医薬品市場が2034年に257.5億ドル、Straits Researchは626.3億ドルに達すると推計。非薬物治療を含むGrand View Researchは2033年に653.0億ドルと予測しています。
| 調査会社 | 市場対象 | 基準年・市場規模 | 将来予測 | 年平均成長率(公表値) |
| Fortune Business Insights | 世界・医薬品 | 2026年 172.4億ドル | 2034年 257.5億ドル | 4.59%(2026~34年) |
| Straits Research | 世界・医薬品 | 2026年 296.5億ドル | 2034年 626.3億ドル | 9.8%(2026~34年) |
| Grand View Research | 世界・薬物+非薬物治療 | 2026年 325.0億ドル | 2033年 653.0億ドル | 10.5%(2026~33年) |
| The Business Research Company | 世界・薬物+非薬物治療 | 2026年 171.0億ドル | 2030年 278.8億ドル | 13.0%(2026~30年) |
| Grand View Research(日本) | 日本・薬物+非薬物治療 | 2026年 約23.0億ドル | 2033年 約50.8億ドル | 12.0%(2026~33年) |
出典:Fortune Business Insights/Straits Research/Grand View Research/TBRC/Grand View Research日本市場。
Clarivateの2026年版「Atrial Fibrillation – Landscape & Forecast」は、米国、英国、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、日本を対象に、2034年までの薬剤別年間売上と患者シェアを予測しています。19件の循環器専門医インタビューに基づく定性的分析も含まれ、地域ごとの処方変化を検討する資料です。出典:Clarivate公式レポート。
抗凝固薬市場|DOACとジェネリック化の影響
心房細動に伴う脳卒中予防では、アピキサバン(Eliquis)、リバーロキサバン(Xarelto)、エドキサバン(Lixiana/Savaysa)、ダビガトランなどのDOACが中心的な役割を担っています。これらの薬剤は長期投与されるため、患者数の増加や処方継続が治療薬市場の需要に関わります。
一方、DOACの特許切れとジェネリック化の進展は、先発品の売上や薬価に影響します。Clarivateは2026年版で、ジェネリック化が2034年までの市場構造に与える影響を分析しています。心房細動市場の見通しでは、患者数の増加と医薬品売上の増加を同一視せず、薬剤別の競争を追う必要があります。
次世代抗凝固薬|FXI・FXIa阻害薬の開発
第XI因子(FXI)または活性化第XI因子(FXIa)を標的とする新しい抗凝固薬は、脳卒中予防効果を維持しつつ出血リスクの低減を目指す開発分野です。Clarivateはabelacimabとmilvexianを心房細動市場の主要な開発候補として取り上げています。
| 候補薬 | 開発企業 | 作用機序 | 2026年時点の動向 |
| Abelacimab | Anthos Therapeutics/Novartis | FXI/FXIaを標的とする抗体 | 高出血リスクの心房細動患者を対象とする後期臨床開発 |
| Milvexian | Bristol Myers Squibb/Johnson & Johnson | 経口FXIa阻害薬 | 心房細動を含む複数の血栓症領域で臨床開発 |
| Asundexian | Bayer | 経口FXIa阻害薬 | 心房細動のOCEANIC-AF試験は既存薬比較で有効性上の問題があり早期終了 |
2026年8月の欧州心臓病学会(ESC)では、milvexianの急性冠症候群患者を対象としたLIBREXIA ACS試験が主要な心血管イベント低減を示さなかったと報告されました。これは心房細動の試験結果ではありません。適応症ごとの有効性データが、将来の製品価値を決めることになります。出典:ESC 2026年8月29日発表/Clarivate。
非薬物治療|アブレーションと医療機器市場
心房細動市場のもう一つの競争領域は、カテーテルアブレーションです。肺静脈隔離を中心とするアブレーションでは、高周波や冷凍バルーンに加えて、パルスフィールドアブレーション(PFA)の普及が進んでいます。PFAは非熱的な電気パルスを用いる技術で、複数の企業が製品を展開しています。
米FDAは2024年10月にMedtronicのSphere-9/Afferaシステム、2024年11月にBiosense WebsterのVARIPULSE、2025年8月にKardiumのGlobe Pulsed Field Systemを承認しました。対象となる心房細動の病型や適応は機器ごとに異なります。
出典:FDA Affera/FDA VARIPULSE/FDA Globe。
Grand View ResearchとThe Business Research Companyが公表する治療市場予測には、こうした非薬物療法の技術革新が反映されています。製薬企業にとっては、薬物療法とアブレーションの役割分担、治療ラインの変化、併用管理のあり方が注目されます。
まとめ|心房細動市場2026|市場規模・将来予測・抗凝固薬の開発動向
- 世界の心房細動患者数は約3,750万人とする推計が広く引用されています。
- 米国の研究では、2019年末の診断済み成人患者数が少なくとも1,055万人と推計されました。
- Fortune Business Insightsは2026年の世界の心房細動治療薬市場を172.4億ドルと予測しています。
- Straits Researchは2026年の世界の心房細動治療薬市場を296.5億ドルと推計しています。
- Fortune Business Insightsは2034年の世界の治療薬市場を257.5億ドルと予測しています。
- Straits Researchは2034年の治療薬市場を626.3億ドルと予測しています。
- Grand View Researchは非薬物治療を含む世界市場が2033年に653.0億ドルへ拡大すると予測しています。
- 脳卒中予防ではDOACが中心であり、ジェネリック化が先発品市場の競争を変える見通しです。
- FXI・FXIa阻害薬ではabelacimabやmilvexianの開発が進む一方、適応症ごとの有効性・安全性の検証が続いています。
- パルスフィールドアブレーションの普及により、医薬品と非薬物療法を組み合わせた治療市場の競争が進んでいます。
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