イパタセルチブがトリプルネガティブ乳がん対象第3相試験で失敗、開発中止に

ロシュのAKT阻害剤イパタセルチブ(ipatasertib)の乳がん第3相IPATunity170試験(NCT04177108)が2021年2月中止となりました。ロシュはイパタセルチブの開発を諦めてはおらず2023年のIPATunity150試験の結果を待っています。

【2023年2月 更新情報 】イパタセルチブがトリプルネガティブ乳がん対象第3相試験で失敗、開発中止になりました。ロシュ社が発表した2022年第4四半期の成績発表でイパタセルチブによる去勢抵抗性前立腺癌初治療第3相試験の脱落が示され、ロシュ社の最新開発品一覧からイパタセルチブは姿を消しました。乳癌や前立腺癌の第3相試験で良い成績を残せていませんでした。

一方で、ライバルであるアストラゼネカが開発を進めているAKT阻害剤であるカピバセルチブ(capivasertib)は、2022年に3つのピボタル試験が開始される予定で、ロシュとしても、これらの動きに神経を尖らせていてもおかしくありません。

がん治療への期待されているAKT阻害剤とは

AKTとは、セリン/スレオニンキナーゼであるAKT/PKB(プロテインキナーゼBの別称)のキナーゼであり、細胞増殖やアポトーシスに密接に関連しており、AKT阻害剤はAKTに結合しタンパク間相互作用を特異的に抑制する15アミノ酸残基のペプチドでAKT活性を選択的に阻害する作用を有し、悪性腫瘍への治療効果が期待されています。

ロシュのイパタセルチブは、もっとも開発ステージのすすんでいるAKT阻害剤であるものの、次に進んでいるのがアストラゼネカ社のカピバセルチブです。カピバセルチブは、乳がんと前立腺がんで開発が進んでいます。

AKT阻害剤:ロシュとアストラゼネカ
臨床試験名 対象疾患 デザイン 主要評価項目 結果
イパタセルチブ Ipatasertib
Ipatential-150 去勢抵抗性前立腺がん(一次) ザイティガ併用とザイティガ比較 PTENタンパク欠損およびすべての参加者のPFS PTENタンパク欠損で成功/それ以外では失敗
Ipatunity-130 トリプルネガティブ乳がん又はホルモン受容体陽性HER2陰性乳がん(一次) パクリタキセル併用とパクリタキセル比較 PTENタンパク欠損のPFS 両方で失敗
Ipatunity-170 トリプルネガティブ乳がん(一次) パクリタキセル+/-テセントリクとの併用とパクリタキセル+/-テセントリクのみとの比較 PD-L1陽性およびPD-L1非陽性のPFSおよびOS 失敗
Ipatunity-150 ホルモン受容体陽性HER2陰性乳がん(一次) フルベストラント+イブランス併用とフルベストラント+イブランスのみとの比較 PTENタンパク欠損およびすべての参加者のPFS 2023年末
カピバセルチブ Capivasertib
CAPItello-290 トリプルネガティブ乳がん(一次) パクリタキセル併用とパクリタキセル比較 PFSとOS 2022年末
CAPItello-291 ホルモン受容体陽性HER2陰性乳がん(二次) フルベストラント併用とフルベストラント比較 PFS 2022年末
CAPItello-281 ホルモン感受性前立腺がん ザイティガ併用とザイティガ比較 PTENタンパク欠損のrPFS 2024年末
出典:Source: company presentations & clinicaltrials.gov. Evaluate Pharma

ロシュ、イパタセルチブへの大きな期待

ロシュは、Arrey社から導入したイパタセルチブに対して大きな期待を持っていましたが、2020年9月の欧州臨床腫瘍学会(ESMO)と12月のサンアントニオ乳癌学シンポジウム(San Antonio Breast Cancer Symposium)で報告された第3相IPATunity130試験でのトリプルネガティブ乳癌(TNBC)、ホルモン受容体陽性乳癌治療の失敗に続き、もう1つの乳癌対象の第3相試験(IPATunity170/NCT04177108)も失敗となりました。
イパタセルチブは、調査会社Evaluate Pharma社のコンセンサス予想でも予想売上高も7億ドル以上とみられていましたが、同社はこの予想の達成は難しくなってきたと述べています。

諦めていないイパタセルチブの開発

ロシュはまだ同開発品を諦めてはおらず、乳がん対象でイパタセルチブの第3相試験はフルベストラントfulvestrant)とイブランス(palbociclib )との併用を検討している第3相IPATunity150試験が残っており、その結果は2023年に判明する見込みです。

AKT阻害剤で、追いかけるアストラゼネカ

ロシュとアストラゼネカの臨床プログラムにはいくつかの違いがあります。アストラゼネカのトリプルネガティブ乳がん対象の試験では、PD-(L)1阻害剤を使用しておらず、ホルモン感受性乳がんの被験者はセカンドライン以降です。どちらの試験も、前臨床でAKT阻害に対する感受性をもたらすことが示されているPTEN変異について予め選択はしていません。

前立腺がん対象の試験であるCapitello-281ではPTEN変異の事前選択が行われていますが、これはホルモン感受性を対象としたものです。ロシュのIpatential-150試験は去勢抵抗性疾患を対象としています。前臨床試験でも、両社のプロジェクトにはいくつかの違いがあることが明らかになっています。

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