サノフィは8月17日、経口SERD阻害剤アムセネストラントの乳がん治療に関する開発を中止すると発表した。この決定は、ER+/HER2-進行乳がん患者の一次治療として、アムセネストラントとファイザーのCDK4/6阻害剤イブランス(パルボシクリブ)の併用を評価した第3相試験AMEERA-5の事前指定中間解析に基づくものです。
サノフィ社によると、アムセネストラントとイブランスの併用療法は、イブランスとレトロゾールの対照群と比較して、独立データモニタリング委員会(IDMC)により継続の条件を満たさないことが確認されました。なお、新たな安全性シグナルは認めらていませんでした。
同社は、今後、AMEERA-5の結果を科学的コミュニティと共有する予定です。一方、ASCO2022年では、より大規模な術前環境のAMEERA-6試験で術前SERDの承認を目指すと発表していましたが、AMEERA-6を含む他の全てのアムセネストラントの試験は中止される予定です。
アムセネストラント、以前の試験でも失敗
22年3月、サノフィは、アムセネストラントが第2相AMEERA-3試験で、局所進行性または転移性ER+/HER2乳がんに対するアジュバント療法として意味のある無増悪生存(PFS)利益を実証できなかったと発表した。
当時、同社の経営陣は、経口SERDが最も可能性を持つ分野であるため、アジュバント療法を含め、早期患者に対するアムセネストラントの開発を継続することを主張しました。
4月にロシュが発表した、同じクラスであるギレデストラントが、進行性疾患の後期治療薬として試験したフェーズ2試験の主要PFSエンドポイントを達成できませんでした。
乳がん治療の選択的エストロゲン受容体分解薬(SERD)とは?
乳がんの中で、約8割が、HR+(ホルモン受容体陽性)の乳がんです。これは、がん細胞表面のホルモン受容体にエストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンが結合、、がん細胞が増殖します。乳がんの治療として、この受容体の結合を阻害する抗エストロゲン約と、エストロゲンの分泌を抑える医薬品があります。HR+乳がんの薬物治療の中の一つにホルモン療法があり、進行や再発を防ぐ目的で多くの乳がん治療に使われています。患者が受ける治療で、治療期間も長期にわたります。
選択的エストロゲン受容体分解薬(SERD)
選択的エストロゲン受容体分解薬(SERD)は、抗エストロゲン薬の一つで、エストロゲンが結合する受容体を分解し、その量を減らす作用を持ちます。ホルモン療法を続けることで、エストロゲンとは別のがん細胞増殖因子がエストロゲン受容体を刺激するようになり、治療効果が得られなくなることが知られていますが、SERDは、ホルモン療法に耐性化した場合でも効果をあるとされています。
SERDとしてのアストラゼネカのフルベストラント(フェソロデックス)が承認されており、ブロックバスター医薬品の仲間入りをしています。しなしながら、フェソロデックスは、有効性はあるものの、筋肉内への投与が難しいという欠点があります。(参照:【ASCO2022 乳がん】サノフィ、AMEERA-4試験中止も、大規模試験開始で目指す最初の術前乳がん治療SERD)
メナリーニのエラセストラントは、大手製薬会社のライバルを出し抜いたのか?
アストラゼネカの経口SERDであるcamizestrantの試験のデータがまだ読み出されていない中で、メナリーニのエラセストラントが昨年12月のフェーズ3相EMERALD試験で、このクラスの薬剤で唯一明確な成功を収めた薬剤である。
サノフィとロシュの最初の失敗とは対照的に、ER+/HER2乳がんにおけるエラセストラントのポジティブなデータは、セカンドラインまたはサードラインで使用するものであり、EMERALD試験でmESR1陽性の患者を豊富に集めたメナリーニの決定によって、この結果は確かなものになったと思われます。
FDAは最近、エラセストラントの優先審査権を付与し、2023年2月中旬までに決定を下す予定です「メナリーニ社の経口SERDエラセストラント、乳癌対象でFDAの優先審査を得る」。
アムセネストラントの開発プログラムの終了の影響は?
サノフィのアムセネストラントの開発プログラムの終了で、他の経口SERDsへの影響はどうでしょうか?
例えば、Wolfe Researchのアナリストは、初期段階のデータを比較すると、アムセネストラントはアストラゼネカやロシュの経口SERDよりも効果が劣る可能性があると主張していました。
これに対し、サノフィは以前、アムセネストラントは競合品より忍容性が優れており、併用療法や早期治療薬としての利用を促進する可能性があると主張していましたが、これらの主張が不正確であることが現在では明らかになっています。