ASCO2022で第一三共がHER3乳がん対象のパトリツマブ・デルクステカンの良好なデータを発表

ADC

第一三共のパトリツマブ・デルクステカンが、HER3発現転移性乳がん患者を対象とした試験結果でも有効性と安全性を示すデータをASCO2022年時総会で発表した。第一三共は、HER3に対する抗体薬物複合体(ADC)であるパトリツマブ・デルクステカン(U3-1402/HER3-DXd/patritumab deruxtecan)の乳がんを対象とした第I/II相臨床試験結果について、発表した。第一三共は、同罪については肺がんを対象とした臨床試験の結果もASCO2022年次総会で発表している。この記事では、HER3発現転移性乳がんに関する発表された臨床試験データおよびKOLからの評価をご紹介します。

エンハーツと共に注目のトラスツズマブ デルクステカン

第一三共が開発しているADCとは?

パトリツマブ・デルクステカンは、第一三共が保有する主要なDX抗体薬物複合体(antibody-drug conjugate:ADC)3つの中の一つです。抗体薬物複合体とは、特異的な分子を発現するがん細胞を標的とするモノクローナル抗体に対して,リンカーを介して殺細胞活性を有する薬物を結合させた抗体です。ADCにより、選択的かつ効果的にがん細胞を死滅させると共に,全身毒性の軽減も期待できます。しかしながら,ADC技術開発には有効性,安全性,物性面等,未だ改良の余地が多く残されており,より多くのがん種に適用でき,かつ,より強力な治療効果を示すADCの創製が期待されています。

第一三共では、搭載薬剤には強力な新規トポイソメラーゼ I 阻害化合物 DXd を選択しています。リンカーには癌で発現するカテプシンにより薬剤を遊離しうるペプチド含有リンカーを採用しています。

トラスツズマブ デルクステカンの特徴

トラスツズマブ デルクステカンの特徴として、作用機作のみならず、高く均一な 薬物抗体比率(Drug-to-antibody ratio)が達成可能であること、血中安定性が極めて高い一方で遊離した薬剤は血中半減期が短く、安全性の両面で望ましいプロファイルが示唆されていることがあります。
更に、DXdは細胞膜透過性を有しているため、標的のがん細胞を殺傷し、さらにその傍にあるがん細胞にも抗腫瘍効果を発揮する、bystander効果が期待できます。

パトリツマブ・デルクステカンは自社で保有。

第一三共は、3つのADCを開発し、そのうち2つのADC、ダトポタマブデルクステカン(DS-1062)とエンハーツ(トラスツズマブ デルクステカン、DS-8201)をアストラゼネカにライセンスしたが、3つ目のパトリツマブ・デルクステカンは自社で保有、開発を続けている。トラスツズマブ デルクステカンは、転移性または局所進行性のEGFR変異型非小細胞肺がん(NSCLC)患者の治療薬として、2021年6月のASCO2021の発表に基づき、FDAからBreakthrough Designation(画期的治療薬指定)の指定を受けています。今回、ASCO2022で発表された結果は、転移性乳がんにおけるパトリツマブ・デルクステカンの可能性を示しています。

「今回の試験の結果から、パトリツマブ・デルクステカンは患者において臨床的に意味のある持続的な抗腫瘍活性をもたらすことが示され、HR陽性/HER2陰性、HER2陽性、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)全体に対する試験における、このHER3に対するADCであるパトリツマブ・デルクステカンの有効性と安全性評価をさらに正当化されます。」 エキスパートオピニオン1

「もちろん、これはここからどこへ行くのかという問題を提起しますが、明らかにADCは爆弾のような効果が期待できます。化学療法のデリバリーにおける大きな進歩と言えます」- エキスパートオピニオン2

「すべての乳がんサブタイプで臨床的の有用性が確認された。将来は明るい」-エキスパートオピニオン3

パトリツマブ・デルクステカン(U3-1402/HER3-DXd)の第I/II相臨床試験結果

パトリツマブ・デルクステカン(U3-1402/HER3-DXd)の第I/II相臨床試験結果

HR陽性/HER2陰性, HER3高発現またはHer3低発現 (n=113) トリプルネガティブ乳がん HER3高発現 (n=53) HER2陽性とHER3高発現 (n=14)
客観的奏効率(ORR) 30.1% 22.6% 42.9%
部分奏効率とn数(PRs) 30.1% (34) 22.6% (12) 42.9% (6)
無増悪生存期間/月(mPFS) 7.4 months 5.5 months 11.0 months
全生存期間/月 (mOS) 14.6 months 14.6 months 19.5 months

 追跡期間中央値31.9カ月(範囲15-56)において、HER3陽性またはHER3陰性、HR陽性/HER2陰性のMBC患者における客観的奏効率(ORR)は30.1%であった。奏効はすべて部分奏効(PR)であった。本コホートにおける奏効期間(DOR)中央値は7.2カ月、無増悪生存期間(PFS)中央値は7.4カ月、全生存期間(OS)中央値は14.6カ月であった。

HER3高発現の転移性TNBC患者において、ORRは22.6%であり、奏効者はすべてPRであった。DORの中央値は5.9ヶ月、PFSの中央値は5.5ヶ月、OSの中央値は14.6ヶ月であった。

HER3高発現、HER2陽性のMBC患者では、ORRは42.9%であり、やはりすべての奏効は部分的であった。DORの中央値は8.3ヶ月、PFSの中央値は11.0ヶ月、OSの中央値は19.5ヶ月であった。

抗HER3領域で続く開発

抗HER3領域では、最近HER3陽性固形癌で臨床に入ったハミングバード・バイオサイエンスのHMBD-001に注目が集まっています。また、GSKのGSK2849330もNRG1融合癌で興味深い結果を出しているが、現在同社のパイプラインには掲載されていません。さらに、メルス社のNRG1融合遺伝子陽性固形癌を対象としたHER2/HER3標的バイスペシフィック抗体、ゼノクツズマブは、ASCO2022年時総会で重要な結果を発表している。

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