次世代免疫療法の競争が激化している中で、TIGITをターゲットとした治療法の開発が加速しています。抗TIGIT抗体チラゴルマブのSKYSCRAPER-01(非小細胞肺がん対象)とSKYSCRAPER-02(小細胞肺がん対象)試験の残念な結果が出るまで、TIGITは新世代の免疫療法アセットとしてかなり期待されていました。
PD-L1高発現の局所進行性または転移性非小細胞肺がんを対象にチラゴルマブとPD-L1阻害剤テセントリクを評価した第3相SKYSCRAPER-01試験(NCT04294810)の中間解析では、主要評価項目のPFSは達成されませんでした。ASCO2022年時総会開始直前の注目演題の中の一つでも注目の結果発表でした。
抗TIGITへ暗雲。ロシュ、チラゴルマブ小細胞肺がん対象で全生存期間でも未達成をASCO2022で発表
ASCO2022国際会議で、ロシュ社が、小細胞肺がんを対象で行ったチラゴルマブの第3相SKYSCRAPER-02試験の詳細な結果を発表しました。同試験に関しては、数ヶ月前に、無増悪生存期間(PFS)の共同主要評価項目を達成できなかったトップライン結果を発表していましたが、今回ASCO2022で発表したデータでは、さらにチラゴルマブが全生存(OS)目標に対しても利益をもたらさなかったということも付け加える結果となりました。ロシュは、TIGITががん治療において何らかの意義を持つと引き続き考えており、チラゴルマブ研究の追加データが入手可能になり次第、共有する予定です。
小細胞肺がん対象のSKYSCRAPER-02試験
小細胞肺がんは、急速な進行と生存率の低さが特徴の最も攻撃的な肺がんです。第3相SKYSCRAPER-02試験では、未治療のES小細胞肺がん患者490人を対象に、小細胞肺がんのファーストライン治療として承認されているテセントリク+化学療法に加えて、病勢進行または臨床効果の消失までチラゴルマブまたはプラセボを無作為化投与する試験で、チラゴルマブの追加による効果と安全性を評価しています。
共同主要評価項目は、ベースライン時に脳転移の既往または存在がない全患者における治験医師評価によるPFSおよびOS(主要解析セット)です。その他の評価項目は、脳転移の有無にかかわらず全患者におけるPFSとOS(フル解析セット)、客観的奏効率、奏効期間です。
両群ともOSは約13ヶ月
2月6日のデータカットオフ時点で、主要解析セットのPFS中央値は、テセントリク+化学療法にチラゴルマブを追加投与した患者が5.4カ月だったのに対し、テセントリク+化学療法のみでは5.6カ月でした。
OS中央値は、各群とも13.6カ月でした。フル解析セットでは、チラゴルマブ追加投与群のPFSは5.1カ月、プラセボ投与群では5.4カ月でした。OSはこの解析セットでは正式に検証されていませんが、ASCO2022会議で報告された値はそれぞれ13.1カ月と12.9カ月でした。本試験は予定されているOSの最終解析まで継続されるとしています。
研究者らは、「対照群で認められたPFSとOSは、テセントリクの第3相IMpower133試験で認められた結果を支持し、この療法がES-小細胞肺がん患者のファーストライン治療の標準治療となることをさらに確認する 」と結論づけています。
テセントリクは、ES-SCLCにおいて生存ベネフィットを示した最初のがん免疫療法であり、20年ぶりに治療選択肢として承認されています。
安全性は両群ともに同等
一方、グレード3および4の治療関連有害事象は、チラゴルマブ投与群の52%強に対してプラセボ投与群では56%近くと高く、死亡に至る有害事象もそれぞれ2%、0.4%の割合で発生した。投与中止に至った副作用は、両群とも約5%とほぼ同じでした。
同じ抗TIGIT抗体を開発するiTeos Therapeutics社の不安
抗TIGIT免疫療法剤チラゴルマブ(tiragolumab)をPD-L1阻害剤テセントリク(atezolizumab)に上乗せする効果を評価する第3相SKYSCRAPER-02試験でしたが、以前発表の、広範囲ステージの小細胞肺がん(ES-SCLC)患者の無増悪生存期間(PFS)に加えて、全生存(OS)でも、抗TIGIT免疫療法を受けなかった患者よりも数値的に低くなることが明らかになりました。
ロシュ社は、先月、非小細胞肺がん患者を対象とした第3相SKYSCRAPER-01試験においても、テセントリクにチラゴルマブの上乗せ投与がPFSを大幅に延長できなかったことを発表しています。ロシュ社の最高医学責任者であるLevi Garraway氏は先月時点で、次のステップを決定するためにSKYSCRAPER-01のOSの最終結果を待っているところであると述べています。今回のロシュ社からの発表を受けて、抗TIGIT抗体開発でGSK社と提携しているiTeos Therapeutics社は不安をほのめかしています。
製薬企業がまだ次世代療法をあきらめていないことは明らかである。ロシュの抗TIGIT分子と並んで、他の多くの大手製薬会社も抗TIGIT分子に投資しており、その中には、NSCLCを対象に第3相の開発段階にあるBeiGene Ociperlimab、初期および中期の積極的プレーヤーとしてInovent Biologics、BMS/Compugen、アストラゼネカ、iTeos Therapeutics/GSK が含まれています。さらに、ギリアドとアーカスでは、5月にロシュがチラゴルマブを発表するわずか1日前に、自社候補のDomvanalimabについて情報を開示し、アナリストに推測の余地を残しました。その直後、GSKとiTeosは抗TIGIT療法試験の延期を示唆しています。新たな治療法の失敗ではあるが、ES-SCLCは進行が非常に早く治療が困難な肺がんである事は認識をしなくてはなりません。
しかし、最近の肺がんにおける後期臨床段階での失敗に対しては、投資家や医療関係者の間で懸念が高まっている事も確かです。
一方、別の次世代免疫療法のターゲットも、がん領域に参入している。BMSのレラトリマブもその一つである。最近、メラノーマでレラトリマブが承認されたことで、BMSはLag-3を3番目の免疫チェックポイント阻害剤として、がん治療の現場に参入させています。
この結果を受けて、DelveInsightがインタビューをした専門家は以下のように述べています。
「小細胞肺癌のターゲットとしてのTIGITは、おそらくこれ以上研究する価値はないと思いますが、それ以上に…様々な癌に対する我々の幅広いコミットメントは揺るぎないものだと思います。私たちは全く後退していません」
「無症候性脳転移の未治療を認めるべき。PFS&OSに差はない。抗TIGITでは期待値が高すぎた。こここまで」
参照記事
SKYSCRAPER-02: Primary results of a phase III, randomized, double-blind, placebo-controlled study of atezolizumab (atezo) + carboplatin + etoposide (CE) with or without tiragolumab (tira) in patients (pts) with untreated extensive-stage small cell lung cancer (ES-SCLC). [ASCO]
Yet another failure in treating Small-Cell Lung Cancer Roche’s much-anticipated anti-TIGIT immunotherapy fails in PhaseIII
A Study of Tiragolumab in Combination With Atezolizumab Compared With Placebo in Combination With Atezolizumab in Patients With Previously Untreated Locally Advanced Unresectable or Metastatic PD-L1-Selected Non-Small Cell Lung Cancer (SKYSCRAPER-01)
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