2800以上の演題やプロジェクトが受付され、開催中は4万人以上の専門家が参加するASCO2022。今回は、肺がんに注目を致します。この注目演題は、製薬業界特化のリサーチ会社デルブインサイト社が、ASCO2022の開催に先立ち、肺がん領域での注目演題をピックアップした記事を、Insights4 Pharmaがお届けいたします。
ASCO2022「肺がん」で注目の演題は?
アブストラクトLBA9009:ミラティ社のアダグラシブ
肺がん領域では、ミラティ・セラピューティクス、ロシュ、ブリストル・マイヤーズスクイブなどのデータリードアウトに注目しています。それぞれの演題に関して解説を続きます。ミラティ社は、ASCO会議において、KRAS G12C変異を有する非小細胞肺癌を対象としたKRYSTAL-1試験のアダグラシブに対する臨床結果を発表する予定ですが、この結果が、すでに承認されているライバル、アムジェン社のルマクラス(ソトラシブ)に対して優位に立てるかが注目されます。
ミラティ社のKRAS阻害剤アダグラシブ、肺がんで43%のORRを示すも株価下落。安全性への懸念か?
第2相KRYSTAL-1試験の全データを発表予定
KRYSTAL-1試験では、全身療法後のKRAS G12C変異を有する進行非小細胞肺がん患者を対象にアダグラシブを評価する第2相試験であり、ASCOでは全結果を発表する予定です。
2021年6月にintent-to-treat集団での解析が終了し、アダグラシブ600mg BIDは43%の客観的奏効率(ORR)と80%の病勢コントロール率を示したと発表しています。その後の追跡調査期間での中央値は9カ月でした。
注目すべきは、98.3%の患者が免疫療法および化学療法による治療後にアダグラシブの投与を受けたことです。安全性と忍容性のプロファイルは、進行性非小細胞肺癌におけるアダグラシブの既報の知見と一致していた。
RTORプログラムの下の迅速承認審査がすすむ
アダグラシブの新薬承認申請(NDA)は現在、少なくとも1回の全身療法を受けたことのあるKRASG12C変異を保有する非小細胞肺癌対象の治療薬として、FDAによる迅速承認(サブパートH)の審査を受けています。
この申請は、FDAのリアルタイムオンコロジーレビュー(RTOR)パイロットプログラムの下で審査されているため、できるだけ早く患者さんに提供できるようになることが期待されます。また、アダグラシブは、非小細胞肺癌に対する治療薬として、米国ではブレイクスルー・セラピー指定も得ています。
アクセス拡大プログラム実施中
ミラティ社は、米国において、腫瘍の種類にかかわらず、KRAS G12C変異のある悪性腫瘍の治療を目的としたアダグラシブのアクセス拡大プログラム(EAP)を実施しています
米国FDAはすでにKRASG12Cを保有するNSCLC患者に対するアダグラシブのNDAを受理し、PDUFA(Prescription Drug User Fee Action)の期限を2022年12月14日としています。
強い有効性も、副作用への懸念
アダグラシブは(発表された中間データでは)強い有効性を持っているかもしれませんが、副作用が重荷になる可能性があり、非小細胞肺癌の治療薬として、この副作用がすでに承認されているアムジェンのルマクラスの強い利点になると考えられます。
第2世代のKRAS阻害剤との競合
非小細胞肺癌対象の臨床試験の比較では、ルマクラスとアダグラシブは同等のデータを持っていると評価されると考えられますが、同クラスでの今後の参入が期待される開発品、すなわちイーライリリー社、レボリューション社による第2世代のKRAS阻害剤との競争に直面する可能性があるとデルブインサイト社では考えています。
肺がん以外ではアダグラシブに軍配
肺がんではルマクラスの方が有利かもしれないが、大腸がんや膵臓がんではミラティ社のアダグラシブのほうが、アムジェンのルマクラスと比較して有意であると分析しています。デルブインサイトでは、大腸がん対象のアダグラシブとセツキシマブの併用試験から得られる心強いデータに期待をしています。
ミラティ社とアムジェン社は、肺がんにおける遺伝子検査の重要性とKRAS活性の役割について、腫瘍内科医に広く知ってもらうために、医師向けのマーケティングキャンペーンを開始しています。両社とも将来のバケットリストに大腸がんと膵臓がんを掲げていることから、この動きは長期的には両社にとって実りあるものになると分析しています。
アブストラクトLBA8507:ロシュ/ジェネティックのTIGIT免疫療法チラゴルマブ
ロシュグループであるジェネンテック社が、490人の広範なステージの小細胞肺がんを対象としたに、ファーストラインとしてチラゴルマブとテセントリク(アテゾリズマブ)および化学療法を、テセントリクおよび化学療法単独と比較評価した国際共同第3相試験結果を発表します。
第3相SKYSCRAPER-02試験では、主要評価項目達成できず
ジェネンテック社は、先日、第3相SKYSCRAPER-02試験の共同主要評価項目である無増悪生存期間が達成されなかったと発表しました。また、主要評価項目である全生存期間も中間解析で達成されず、予定されている最終解析でも統計的有意差に達する可能性は低いとのことです。なお、チラゴルマブとテセントリクおよび化学療法の併用は忍容性が高く、チラゴルマブを追加しても新たな安全性シグナルは確認されませんでした。
小細胞肺がんは、急速な進行と生存率の低さが特徴の最も攻撃的な肺がんであす。テセントリクは、ES-SCLCにおいて生存ベネフィットを示した最初のがん免疫療法であり(第3相IMpower133試験)、20年ぶりに承認された治療選択肢となりました。
アンメットニーズの高い複数癌腫での模索
チラゴルマブにおける開発プログラムでは、テセントリクをベースに、より早期のステージに拡大し、アンメット・メディカル・ニーズの高い進行がんや治療困難ながんに新たな治療選択肢を提供すべく、複数の臨床試験で前進を模索し続けています。
ティラゴルマブは、第2相CITYSCAPE試験の結果に基づき、PD-L1高転移性非小細胞肺がんの初期治療薬として2021年に米国食品医薬品局からブレークスルー・セラピー指定を受けており、この指定を受けた唯一の抗TIGIT治療薬となります。
5つの第3相臨床試験を実施中
現在、CITYSCAPEの結果を確認するため、第3相SKYSCRAPER-01試験が進行中です。2020年以降、ジェネンテックは、小細胞肺がんに対して、SKYSCRAPER-01試験、SKYSCRAPER-03試験、進展型小細胞肺癌対象でSKYSCRAPER-02、食道がんにSKYSCRAPER-07、SKYSCRAPER-08、および各種腫瘍型における複数の早期臨床試験など、5つの第3相試験を開始しています。
第3相SKYSCRAPER-02試験の失敗が問う次の一手は?
SKYSCRAPER-02試験の結果は、治療が依然として困難な広範なステージの小細胞肺がんにおけるテセントリクの進歩に基づく継続を期待していただけに、残念なものでした。
特に、ロシュの初期のCITYSCAPEデータセットに匹敵する単剤活性を示すTIGITプレーヤーが他にいないため、確固たる結論を出すには、SKYSCRAPER-01の全データが必要です。
CITYSCAPE試験の心強い結果に基づく、PD-L1高値の非小細胞肺がんを対象とした今後の第3相試験からの追加データが、このがんに対して最も待ち望まれるところである。
TIGITに対する関心はここ2-3年で高まり、現在この分野では、非小細胞肺癌を対象に第3相の開発段階にあるBeiGene社のOciperlimabをはじめ、初期および中期段階には、Innovent Biologics、BMS/Compugen、アストラゼネカ、iTeos Therapeutics/GSK などが積極的に活動しています。
注目の演題のサマリーとASCO2022での発表時間
Company | Title | Phase | Indication | Abstract number | Date/Time | |
Lung Cancer Space | ||||||
Mirati Therapeutics | The activity of adagrasib (MRTX849) in patients with KRASG12C-mutated NSCLC and active, untreated CNS metastases in the KRYSTAL-1 trial. | II | NSCLC | LBA8511 | June 7, 2022,
3:00 AM GMT+5:30
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Hoffmann-La Roche | SKYSCRAPER-02: Primary results of Phase III, randomized, double-blind, placebo-controlled study of atezolizumab (atezo) + carboplatin + etoposide (CE) with or without tiragolumab (tira) in patients (pts) with untreated extensive-stage small-cell lung cancer (ES-SCLC). | III | NSCLC | LBA8507 | June 5, 2022, 8:15 PM GMT+5:30 | |
Bristol-Myers Squibb
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Five-year survival outcomes with nivolumab (NIVO) plus ipilimumab (IPI) versus chemotherapy (chemo) as first-line (1L) treatment for metastatic non-small cell lung cancer (NSCLC): Results from CheckMate 227. | III | NSCLC | LBA9025 | June 6, 2022, 6:30 PM GMT+5:30 | |
Bristol-Myers Squibb
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First-line (1L) nivolumab (NIVO) + ipilimumab (IPI) + two cycles of chemotherapy (chemo) versus chemo alone (four cycles) in patients with metastatic non-small cell lung cancer (NSCLC): 3-year update from CheckMate 9LA. | III | NSCLC | LBA9026 | June 6, 2022, 6:30 PM GMT+5:30 | |
Hoffmann-La Roche | Efficacy/safety of entrectinib in patients (pts) with ROS1-positive (ROS1+) advanced/metastatic NSCLC from the Blood First Assay Screening Trial (BFAST). | II/III | NSCLC | LBA9023 | June 6, 2022, 11:45 PM GMT+5:30 | |
Bristol-Myers Squibb | Neoadjuvant nivolumab (NIVO) + platinum-doublet chemotherapy (chemo) versus chemo for resectable (IB–IIIA) non-small cell lung cancer (NSCLC): Association of pathological regression with event-free survival (EFS) in CheckMate 816. | III | NSCLC | LBA8511 | June 6, 2022, 10:00 PM GMT+5:30 |
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