最新の研究で、腫瘍由来のサイトカインである胸腺間質性リンパポエチン(TSLP)が、腫瘍微小環境におけるTreg(制御性T細胞)の機能に影響を及ぼし、TSLPを制御することで、大腸がんの進行を止める可能性を示唆するデータが得られたことが発表されました。
Treg(制御性T細胞)とは
制御性T細胞(Treg)は、抗炎症性サイトカインIL-10を産生することで免疫応答を負に制御する免疫抑制細胞です。Tregは、自己免疫やアレルギー、過剰な炎症反応などの有害な免疫反応を抑制、免疫寛容や免疫恒常性の維持の働きをしますが、悪性の腫瘍において、Tregは、癌の進行に影響を与えます。そのためTregは、がん進行のマーカーとして活用されています。
がん細胞は、このTregを利用し、免疫系からの攻撃を回避、さらに活性化してTregを増加させています。また、大腸癌患者の腫瘍や末梢血には健康な人には見られないTSLP発現調節性T細胞が存在します。
そのため、TSLPなどの腫瘍由来のサイトカイン因子は、腫瘍におけるTregの機能に影響を与える可能性があると考えられています。
TSLP遮断が、マウスモデルで大腸癌の進行を効果的に抑制
今回の研究では、TSLPの受容体を発現するTregのサブセット(TSLPR+ Treg)がヒトおよびマウスの大腸腫瘍で増加し、隣接する正常結腸ではほとんど存在しないことを明らかにしています。
このTregサブセットは、大腸がん患者の末梢血にも認められましたが、健常者の末梢血には認められませんでした。このTregサブセットは、interleukin-33 (IL-33) 受容体 [ST2] を共発現し、PD-1CTLA-4を多く発現し、転写因子Mef2cによって一部制御されていることがメカニズム上判明しました。
ST2ではなくTSLPRのトレグ特異的欠失は、化学的に誘導された大腸がんモデルマウスの腫瘍において、TH1細胞の増加を伴う腫瘍の数とサイズの減少に関連、TSLP特異的モノクローナル抗体を用いたTSLPの治療的遮断は、このマウスモデルにおける大腸癌の進行を効果的に抑制しました。
これらのデータは、TSLPが腫瘍特異的Treg機能の制御を通じて大腸がんの進行を制御していることを示唆しており、さらなる研究が必要な治療ターゲットとなりうることを示しています。
喘息治療ですでに承認されている抗TSLP抗体テゼペルマブ
研究者は、アムジェンとアストラゼネカがすでに承認をとっている喘息治療薬の抗TSLP抗体テゼペルマブ(Tezspire、tezepelumab)の大腸がんへの効果を期待して、臨床試験で確かめるべきと言っています。
21年12月に米国で重症の喘息患者を対象に承認されたテゼペルマブは、サイトカインであTSLP(る胸腺間質性リンパ球新生因子)を標的とすることで炎症カスケードの上流に対して作用する重症喘息治療を目的としたファースト・イン・クラスの生物学的製剤です。
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