副作用は極めて少ない?効果は他を圧している?政治家の科学リテラシーを問う|コラム:現場的にどうでしょう

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「日本人対象の治験で副作用は既存薬より極めて少なく効果は他を圧しています」「外国承認をアリバイに石橋を叩いて渡らない厚労省を督促中です」。今月上旬、自民党前幹事長である甘利明衆院議員のツイートが炎上しました。

最初に断っておきますが、製薬企業によるロビー活動が悪いと言うつもりはありません。政治の力がなければ突破できない課題は、政治に働きかけるしかありません。しかし、働きかけの中身と、それを政治家がどう受け止め、どう動くかは厳しく問われるべきです。

甘利氏のツイートのあと、2月7日に開かれた記者会見で、塩野義製薬は「非公開のデータを特別に提供したという事実はない」「承認審査において政治など外部の影響を受けることはない」とコメントしました。

しかし事はこれでは終わりませんでした。甘利氏はこの会見の2日後、炎上したツイートについて 「ツイートをするにあたり、データに基づいてこういう表現で間違いないか塩野義に確認したところ、その通りとのことだった」という趣旨のツイートをし、再び炎上。他剤との直接比較を行っていない薬剤について「他を圧倒」などという表現を製薬企業が認めたというのは、にわかには信じられません。仮にそれが事実なら、塩野義は真っ先に経営陣に対してコンプライアンス研修をやったほうがいいでしょうし、仮にそれが事実であったとしても、それをそのまま信じて発信した甘利氏の行動は軽率だったと言わざるをえません。

有効成分が10分の1だから10倍速く作れる?

こんなこともありました。公明党の伊佐進一衆院議員は「社長から直接聞いた話」として、「メルク製は1人8グラム、塩野義は1人800mg。つまり、生産ライン的に10倍の速さで作れるとのこと」とツイートし、こちらも炎上。塩野義の伝え方が悪かったのか、議員の受け止め方が悪かったのかはわかりませんが(10倍速く製造できるとすれば、有効成分の含有量以外にもさまざまな前提条件について説明があったのではないかと推測しています)、いずれにしても「有効成分の含有量が10分の1だから10倍速く作れる」という科学的に考えると明らかにおかしいことを発信した責任は議員にあると思います。

こうした例だけにとどまらず、新型コロナウイルスのパンデミックが始まってから、政治家のリテラシーが問われる場面が目立ちます。

甘利氏は「塩野義に確認をとった」と釈明したツイートにぶら下げる形で、こんな投稿をしています。

ワクチンや治療薬に限らず、どんな分野でも「国産」に信頼を寄せる人が一定数いることは理解できます。しかし、「国産のワクチンや治療薬できるまで安心できない」という声に接したときに為政者がやるべきことは、それを助長することではなく、他国で生まれたものであっても安心して使えることを根拠を示しながら説明することであるはずです。

甘利氏のツイートは、承認審査に疑念を持たれかねない点でも問題だったと考えています。承認審査はPMDA(医薬品医療機器総合機構)の仕事で、当然、開発の過程で取得されたデータとサイエンスに基づいて中立的な立場から行われなければなりません。しかし甘利氏は「厚労省を督促中です」とはっきり書いています。何を督促したのかは明らかではありませんが、政治的な介入を疑われても仕方ありません。

開発者の想いを踏みにじらないでほしい

甘利氏のツイートを見て私が感じたことはこの一言に尽きます。研究開発や製造に携わっている人たちは、新型コロナから人々の健康を守るため、治療薬やワクチンを届けようと必死で頑張っています。その結果、期待通りに上手くいくこともあれば、そうでないこともありますが、評価はサイエンスによって行われるべきだということは、研究開発の現場はよくわかっているはずです。

サイエンスに基づいて行われる新薬開発が、サイエンスとは関係のない部分で注目を集めたり、いわれのない批判を受けたりするのは不本意です。塩野義は研究者の8割を新型コロナ関連に振り向けているとも報じられています。甘利氏の一連のツイートとそれに対する反応によって塩野義の研究者たちがどれだけショックを受けたかはわかりかねますが、新薬開発に関わる人間として私が感じたのは、現場の努力を踏みにじられたことに対する深い悲しみと、「結果が出るまで黙っていてほしい」という想いでした。

今回の件は、日本の政治家にはサイエンスリテラシーの低い人がいることを露呈させる出来事でしたし、社会が冷静さを失っていることをあらためて認識させる出来事だったのかもしれません。皆さん、落ち着いて開発の行方を見守りましょう。最後はサイエンスが判断してくれます。

ノブ。国内某製薬企業の化学者。日々、創薬研究に取り組む傍らで、研究を効率化するための仕組みづくりにも奔走。Twitterやブログで研究者の生き方について考える活動を展開。
Twitter:@chemordie
ブログ:http://chemdie.net/

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