「新しいカテゴリにこだわり続けたい」サンバイオ・森敬太社長/辻村明広副社長|ベンチャー巡訪記

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製薬業界のプレイヤーとして存在感を高めるベンチャー。注目ベンチャーの経営者を訪ね、創業のきっかけや事業にかける想い、今後の展望などを語ってもらいます。

森敬太(もり・けいた)東京大農学部農芸化学科卒、同大大学院農学系研究科農芸化学専攻修了。1993年にキリンビールに入社し、ビール事業の生産管理や研究開発に従事したあと、米国のベンチャー企業を経て、2001年に川西徹会長とともに米国でサンバイオを設立。14年に本社を日本に移し、15年に東証マザーズ上場。

辻村明広(つじむら・あきひろ)金沢大工学部工業化学科卒。ニチメン(現・双日)を経て04年に参天製薬入社。米子会社サンテン・インク社長CEO(最高経営責任者)、専務執行役員企画本部長アジア事業・北米事業担当、取締役専務執行役員などを歴任し、18年にサンバイオ入社。20年9月、副社長COO(最高執行責任者)に就任。

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SB623 今期中の申請へ「予定通り進捗」

――再生細胞医薬品「SB623」を外傷性脳損傷(TBI)の適応で2021年1月期中に国内で申請する予定です。当初計画の20年1月期中から1期先延ばしした経緯がありますが、申請に向けた準備は順調に進んでいますか。

森:現時点では予定通り進捗しており、今期中の申請に向けタイムラインには乗っています。ただ、確実にできるかというと、これから当局との話し合いの中で新たに対応しなければならないことが出てくる可能性もありますので、そこは断言するのではなく、特に投資家の方々に対してはリスクについてもきちんとお伝えしています。

――申請延期の理由として▽製造委託先への技術移転▽商業生産に必要な管理体制の構築▽規格試験の確立――の3つ課題を挙げています。そもそも、こうしたことが起こってしまったのはなぜだったのでしょうか。

森:商業用の生産に向けてやるべきことが思った以上にたくさんあった。商業用の生産には、実際の製造はもちろん、製造を評価する系やそれを支えるドキュメンテーション、システム、管理体制、保証体制、そういったものをすべて整えていく必要があります。細胞製品を商業用に作っている企業は世界的に見てもまだ少ない。そんな中でやっているので、すべてを想定し切れなかったということですね。

――SB623は先駆け審査指定制度の対象に指定されているので、予定通り申請できれば来年夏ごろの承認が見込まれます。販売体制の構築はどこまで進んでいますか。

森:ざっくり言うと8割くらいはできています。もともとはもっと早いタイミングでの発売を想定して動いていましたので、今はそれをさらに深堀りして、より良い状態で発売できるよう準備しているところです。

――MRは自社で持つのでしょうか?

辻村:MRではなく、メディカルアフェアーズを中心に組織を考えています。MRが積極的にプロモーションして販売するような製品ではないので、適正に使っていただけるような情報提供を行っていく予定です。

――脳梗塞の適応では、失敗した米国での後期第2相(P2b)臨床試験の追加解析結果を踏まえ、梗塞のサイズが小さい患者に絞って日本で開発を再開する方針を発表しました。日本を優先させるのはなぜですか。

辻村:限られたリソースをどこに割くかという中で、日本の制度的なベネフィットを使いたいと考えたからです。日本にはTBIで臨床試験をやった施設もあるので、TBIでの発売と並行して脳梗塞・脳出血の臨床試験を走らせればシナジーも出る。米国の優先度を何段階も下げるということではなく、日本のベネフィットをうまく使い、シナジーをとりながら日本で開発を進めるのがベターだと判断しました。

森:日本で活動していると感じにくいのですが、米国のバイオベンチャーからは日本の制度が羨ましいとよく言われます。それは、2014年に薬事法(現・医薬品医療機器等法)が改正され、再生医療新法が制定された時から変わってないんですね。「(自社の開発品を)サンバイオが日本で開発してくれないか」という話もあるくらいですから。それを活用しない手はないですし、日本で進めてグローバルに広げるのというのは、すごくやりがいのあることだと思っています。

――本社を日本に移したのは正しい判断だったのですね。

森:すごく良かったと思っています。ただ、いくつか成功事例で出てこないと日本の制度も10年後20年後にはどうなるかわかりません。私たちも成功事例の1つとして貢献したいですね。

日米は「可能な限り自社で」

――今年3月には、SB623の眼科疾患向けの開発で中国のオキュメンションと提携し、開発・販売権を導出しました。TBIと脳梗塞以外のプロジェクトは、外部と進めていくお考えですか?

辻村:そこはフレキシブルに考えています。オキュメンションは非常にポテンシャルのある会社で、眼科疾患に対する造詣も深い。私たちだけで中国に入っていくのは難しいので、任せた方が患者さんに早く届けられる可能性が高いと判断しました。

それ以外の地域、それ以外の適応については、基本的には自分たちでやっていきたいと思っていますが、リソースには限りがある。判断の視点は、信頼できるパートナーと組めるかということと、どれだけ早く確実に患者さんに届けられるか。パートナーが開発した方が早く確実に患者さんに届くということであればパートナリングという判断になりますし、自分たちでやっていけるというのであればそれが一番いい。そこは決め打ちをしているわけではなく、会社の発展度合いに応じて柔軟に考えていきたいと思っています。

森:サンバイオは日本と米国に拠点がありますので、そこは可能な限り自分たちでやっていきたいですね。

――そもそも再生医療でバイオベンチャーを立ち上げたのはどういう経緯だったのでしょうか。

森:もともとキリンビールにいた頃から、何か新しい事業を作りたいという気持ちがあって、その延長で2001年に大学の同級生である会長の川西とサンバイオを立ち上げました。当時は「バイオで何か新しいことをやろう」と考えていて、最初から再生医療をやろうとしていたわけではないんです。社会を大きく変えられて、自分たちもワクワクできる分野は何だろうと考える中で、ジェノミクス、プロテオミクス、バイオインフォマティクス、再生医療の4つを検討し、最終的に再生医療に絞り込みました。

再生医療に決めたのは、一番大きく社会を変えられそうだと思ったのと、タイミング的にも再生医療なら十分勝っていけそうだと思ったからです。加えて、再生医療は日本の技術レベルが非常に高かった。iPS細胞が注目を集めるずっと前ですが、当時から日本の技術は欧米と比べて優位だと感じていたので、そういうところも含めて再生医療をやることにしました。

――創業は米国でしたが、日本への意識は当時からあったんですね。

森:そうですね。当時はやむなく米国で創業したという面もありました。日本には良い技術はあったんですが、それを事業として立ち上げるインフラが足りなかった。米国のインフラをフル活用して、そこから日本の技術をグローバルに羽ばたかせたいと思っていました。

――来年には創業から丸20年を迎えます。振り返っていかがですか。

森:やはり、新しいカテゴリを作るにはそれなりに時間がかかるんだなというのは感じます。ただ、常に世界のトップを走ってきましたし、SB623のポテンシャルもより実感しているので、早く患者さんに届けて世界に広げていきたいです。

本当にいろんなことがありました。日本が再生医療の中心になるとは20年前には想像もできなかったですし、臨床試験にしても、どうかな?と思っていたところですごく良い結果が出たり、自信があったものがうまくいかなかったり。最先端で苦労してやっていると、失敗も含めていろいろなことが分かってきます。多分、承認を取って発売してからもいろんなことがあると思いますが、そこでも学びがあるでしょうから、今後も楽しみですね。

「ずっと先頭にいたい」

――困難なこともたくさんあったと思いますが、一番苦しかったのはいつですか。

森:サンバイオ・ショック(19年1月、SB623の脳梗塞を対象とした米国P2b試験で主要評価項目が達成できなかったと発表し、2月上旬にかけて株価が暴落した出来事)の時と、リーマンショックの時ですかね。どちらか選べと言われると、リーマンショックの頃の方が大変でした。

あの頃は、米国当局との協議の中で期待通りのスケジュールで開発が進まないことが判明し、加えてリーマンショックによってバイオベンチャーへの投資自体もピタリと止まってしまった。開発に想定以上の時間がかかる中、資金も必要だということで、非常に大変でしたね。

――そうした試練を乗り越え、いよいよ製品を世に出すという段階まで来ました。次の20年を考えた時、サンバイオはどんな会社になっていて、再生医療はどうなっていると思いますか。

森:今チャレンジしている新しいカテゴリは作り切っていたいですね。脳神経の分野で再生医療を世界中の患者に届ける、これは実現させていたい。ただ、20年というスパンだと、それを超えたところでもっといろんなことができると思います。そこで何をやるにせよ、新しいカテゴリであるということ、患者さんにとって本当に意味があるということ、この2つにはこだわり続けたいですね。

辻村:20年たてば技術革新も含めて今とは全然違う世界になるでしょうが、その時もずっと先頭にいたい。治療法がないところにリーチするには既存のカテゴリでは難しいと思うので、新しい領域でパイオニアとして先頭を走っている姿をイメージしながらやっていきたいと思っています。

――SB623には、患者も強い期待を寄せています。

森:患者さんの期待は私たちもすごく感じています。電話やメールもよく頂きますし、リハビリでわずかながら運動機能が戻り、例えば「絵本を書きました」ということで作品を送ってくださる方もいます。最初は「新しいカテゴリを作りたい」という意気込みで始めたのですが、やればやるほど患者さんがリアルに感じられて、その期待に応えたいという気持ちが強くなってきますね。

辻村:サンバイオ・ショックのときも厳しい言葉をたくさん頂きましたが、患者さんから「頑張ってください」という手紙も本当にたくさん頂いて、それを社員みんなで見てモチベーションにしました。

森:脳梗塞については今回、まずは梗塞の小さい患者さんを対象に次の臨床試験を行うことにしましたが、それ以外の患者さんについてももちろん視野に入れて、どこかの段階ではすべての患者さんに届くように開発を続けていきたいと思っています。

(聞き手・前田雄樹)

出典

▷記事提供元はこちら(Answers News)

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