【初心者向け】医療・製薬業界DX事例の読み解き方#1:AIの仕組みがわかる5つの視点

medinew

製薬企業や病院がAIを用いたDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組むニュースが増えています。このようなニュースを何となく目にするものの、「誰が、何をするのか、AIはどうやってつくられるのか、何がすごいのか」については分かりづらいことが多いのではないでしょうか。このシリーズでは、4回に分けて医療・製薬業界のDX事例の読み解き方を解説します。今回は、「AIの仕組みがわかる5つの視点」を紹介します。

医薬品マーケティングにおける「学会情報データベース」活用ガイドブック

活用ガイドブックが「無料」でダウンロード!
● オウンドメディアのコンテンツに学会情報を活用したい
● 定量的な指標を用いて医師のターゲティングを行いたい
● CRM/SFAツールなどと連携しMR支援を行いたい

ダウンロードはこちらから

医療・製薬業界も使える!AIを読み解く5つの視点

AIにはさまざまな定義が存在します。日本大百科全書によると、AIは「『計算(computation)』という概念と『コンピュータ(computer)』という道具を用いて『知能』を研究する計算機科学(computer science)の一分野を指す語」とされています1)

また、平成28年版 情報通信白書2)で、国内の13人の研究者によるAIの定義が紹介されていますが、その内容はさまざまで統一した見解はありません。

このように、AIを明確に定義するのは難しいですが、AIに関わる分析技術としては機械学習があります。近年では、その機械学習の一種としてディープラーニング(深層学習)という手法をよく耳にします。しかし、AIがそういった機械学習を活用していることはわかるものの、具体的にAIとはどのようなものなのかイメージしづらい方は多いのではないでしょうか。

①データ、②計算・処理、③出力、④ハード/ソフト、⑤価値に分ける

そこで本記事では、AIを次のように考えてみます。

「AIとは①データ、②機械学習、③予測、分類、④ハードウェア・ソフトウェアの4つがパッケージ化されたもので、⑤なんらかの価値をもたらす」

AIに限らず、大半のデジタル技術を5つに分けて考えると、大枠の仕組みが理解できます。

①データ:どんなデータが使われているのか
②計算・処理:データにどんな計算・処理をしているのか
③出力:何が結果として出てくるのか
④ハードウェア、ソフトウェア:使われている機械やツールは何か
⑤価値:どんな価値があるのか

オンライン会議、文献検索サイトを5つの視点で読み解く

身近な事例として、オンライン会議や文献検索サイトを①~⑤に分けてみると、次のように考えられます。

<オンライン会議の5つの視点>

①データ:音声、動画を収集
②計算・処理:音声、動画のデータをインターネット、パソコンで転送
③出力:音声、動画で出力して相手に表示
④ハードウェア、ソフトウェア:ハードとしてはマイクやカメラ、PC、ソフトはユーザーが操作するアプリなど
⑤価値:離れた場所にいる相手と会議ができること

ただし、②計算・処理で機械学習を使っていないのでAIとは呼べません。
別の例として、文献検索サイトを①~⑤に分けて考えてみます。

<文献検索サイトの5つの視点>

①データ:大量の文献情報(タイトル、著者、アブストラクト、本文など)を収集
②計算・処理:全文検索、インデックス検索などを実行するアルゴリズム
③出力:検索ワードなどに合致した検索結果を表示
④ハードウェア、ソフトウェア:文献情報などの情報をためておくサーバーや、ユーザーが操作するインターフェイスのWebページなど
⑤価値:知りたい文献情報を簡単に、素早く探す事ができること

上記の文献検索サイトも、②で機械学習を使っていないのでAIとは呼べません。最近では検索に機械学習を活用したサービスも出てきており、この場合は文献検索AIといえます。

医療におけるAIを5つの視点で読み解く

次に、医療におけるAIを①~⑤に分けて考えてみます。

<医療におけるAI>

①データ:X線や内視鏡画像や電子カルテなどの医療情報を収集
②計算・処理:分類や予測を実行するディープラーニング(深層学習)などのアルゴリズム
③出力:X線や内視鏡画像などに対して分類結果や予測値を表示
④ハードウェア、ソフトウェア:CPUやGPU *、メモリなど、AIを操作するOSやアプリ、Webページ
⑤価値:どんなデータを使って、何を出力するかによってさまざま

*グラフィックス プロセッシング ユニット:リアルタイム画像処理に特化した演算装置・プロセッサ

例えば、大腸内視鏡検査の画像データから、大腸がんの病変の分類や、病変の悪性度を分類するAIの価値を考えてみます。「診断の見落としを防ぐ」「早期の発見につながり予後が改善する」「専門医師の負担を軽減する」などが想定されます。

もう一つの例として、健康診断データからある疾患の罹患リスクが高い症例を分類するAIの価値を考えてみます。罹患リスクの高い症例に「早期の介入することで予防することができる」「罹患時期を先送りすることができる」可能性があります。

AIやDXに関するニュースが分かりづらい原因の一つは、①~⑤に分けて記載されていないためです。この5つの視点を意識してAIの事例を読み解くことで、大枠を整理して理解しやすくなります。

胃がん鑑別AIの仕組みと性能、価値

2021年8月31日、内視鏡AIの開発を行う株式会社AIメディカルサービス(AIM社)が胃がん鑑別AIを医療機器製造販売承認申請しました3)。もし実臨床に承認されれば、AIを活用した胃領域の内視鏡診断支援システムとして、世界初の事例となります。

胃がん鑑別AIを5つの視点で読み解く

AIM社が胃がん鑑別AIに関する研究論文を2018年に発表しています4)。その論文について5つの視点で考えてみます。

<胃がん鑑別AI>

①データ:4つの病院・診療所(がん研究会有明病院、東葛辻仲病院、ただともひろ胃腸科肛門科、ららぽーと横浜クリニック)から上部消化管内視鏡(EGD)画像を収集
②計算・処理:深層学習の一種である畳み込みニューラルネットワークで学習
③出力:病変の位置がマーカーで示され、早期胃がん、進行胃がんの分類名が%で出力
④ハードウェア、ソフトウェア:詳細な記載なし、GPUなどを搭載したPCやクラウドサーバーを想定
⑤価値:医師の診断を支援することを想定

胃がん鑑別AIの構築手順

①の収集したデータを基に、胃がん病変を学習させるために準備が必要です。
生検で採取した病変組織を病理医が確認して胃がんと診断された2,639病変、13,584枚のEGD画像に対して、専門の医師が画像を目で確認しながら、この部分は早期胃がん、こちらの部分は進行胃がんとマークをつけます。

続いて、マークのついたEGD画像データ13,584枚を畳み込みニューラルネットワークに読み込ませます。
畳み込みニューラルネットワークが、専門医がマークをつけた胃がんの部分と、そうでない正常組織の部分の画像の特徴を学習します。
このような手順で、胃がんの病変の位置と、早期胃がんと進行胃がんの分類を%で出力する「胃がん鑑別AI」を構築するのです。

胃がん鑑別AIはどのくらい病変を鑑別できるのか?

続いて、構築できた胃がん鑑別AIが、どのくらい胃がん病変の鑑別ができるのかテストを行います。上記のマークしたEGD画像とは別に、新しいEGD画像が2,296枚集められました。実際には2,296枚のうち、77の胃がん病変が既に確認されています。
この結果が判明しているEGD画像について、胃がん鑑別AIがどのくらい77の胃がん病変を鑑別できるかをテストします。

テストの結果は、77の胃がん病変を含む2,296枚EGD画像に対して、胃がん鑑別AIは232の病変を胃がんと鑑別しました。実際の77の胃がん病変のうち、胃がん鑑別AIは71病変を正しく胃がんと鑑別できていました。つまり92.2%を正しく鑑別できたことになります。これを感度92.2%と表現します。
一方で、胃がん鑑別AIが診断した232病変のうち、71病変が実際に胃がん病変でした。これを陽性的中率が30.6%と表現します。
このテスト結果から、「AIの見落としは少ない、ただし胃がんでない病変も多めに胃がんと鑑別しているAIだった」と解釈できます。

内視鏡医と胃がん鑑別AIの診断能力の比較

この胃がん鑑別AIは、実際の内視鏡医師の診断より優れているのでしょうか。この点を検証するために、上記の胃がん鑑別AIの診断能力を67人の内視鏡医と比較した論文が別途報告されています5)。この研究は140例、2,940枚のEGD画像を使って診断能力をテストし、比較しました。胃がん鑑別AIの感度は58.4%、内視鏡医67人の感度は31.9%でした。言い換えると、「胃がんの見落としは胃がん鑑別AIの方が少ない」ということです。

一方で、AIの陽性的中率は26.0%、内視鏡医67人の陽性的中率は46.2%でした。これは、「胃がん病変か、正常病変かの間違いは内視鏡医の方が少ない」ということです。

このことから、「胃がん鑑別AIは内視鏡医より見落としは少ないが、胃がん病変の間違いは内視鏡医の方が少ない」と言えます。つまり胃がん鑑別AIと内視鏡医は、診断に関する得意な部分が違っていると解釈できます。

胃がん鑑別AIの価値

胃がんは、がんの死亡数において日本で3番目に多いがんです。2019年における胃がんの年間死亡者数は42,931例でした6)。胃がんは早期発見、早期介入できれば予後は良好です。しかし、検査で胃がんを見落としてしまうこと(偽陰性率)は、4.6〜25.8%と報告されています4)。もしAIによって胃がんの見落としを減らすことができれば、AIの価値になります。
既述の通り、AIは内視鏡医より胃がんの見落としが少ない結果が報告されています5)。見落としの少ない胃がん鑑別AIでまず病変を鑑別し、次に間違いの少ない内視鏡医の目で診断すれば、より良い診断結果が得られる可能性があります。

また、見過ごせないのは、診断時間にかかる時間です。既述の2,940枚のEGD画像を鑑別するテストにおいて、AIは45.5秒しかかりませんでしたが、内視鏡医は173.0分必要でした5)。医師の働き方改革が求められる現状において、診断時間の短縮は胃がん鑑別AIの一つの価値と言えます。

医療・製薬業界のAIを用いたDX事例は5つの視点で読み解こう

一見難しそうに見える医療におけるAIを用いたDX事例は、5つの視点で読み解くと理解しやすくなります。事例を見たときは、「5つのうちどの部分がすごいのか」を考えてみてください。集めているデータ量が大きいのか、機械学習のアルゴリズムが高度なのか、出力される結果が珍しいのか、などです。

そして、重要なポイントはAIやDXがどんな価値をもたらすかです。AIを活用しようしているのは、医療のどの部分で、現状の問題点やペインは何なのか、AIの出力結果によって何が解決できるのか。このように考えると、事例の良し悪しを見極めやすくなります。
これからAIに関連するニュースを見たら、まずは本記事で紹介した5つの視点で内容を読み解いてみてはいかがでしょうか。きっと今までより理解が深まるでしょう。

<参考>※URL最終閲覧2021年11月22日
1)「人工知能」日本大百科全書,ニッポニカ(https://kotobank.jp/word/%E4%BA%BA%E5%B7%A5%E7%9F%A5%E8%83%BD-4702#E6.97.A5.E6.9C.AC.E5.A4.A7.E7.99.BE.E7.A7.91.E5.85.A8.E6.9B.B8.28.E3.83.8B.E3.83.83.E3.83.9D.E3.83.8B.E3.82.AB.29
2)「平成28年版 情報通信白書 第1部 特集 IoT・ビッグデータ・AI~ネットワークとデータが創造する新たな価値~」総務省(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h28/html/nc142110.html
3)「世界初の胃がん鑑別AIを医療機器製造販売承認申請いたしました」AIM社(https://www.ai-ms.com/20210831/591/
4)Gastric Cancer 2018 Jul;21(4):653-660(https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs10120-018-0793-2
5)Digestive Endoscopy 2021 Jan;33(1):141-150.(https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/den.13688
6)「最新がん統計のまとめ」がん情報サービス(https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html

出典

▷記事提供元はこちら(Medinew メディカルマーケティングマガジン)

あわせて読みたい

  • コメント: 0
  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

コメントするためには、 ログイン してください。