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【第1部】ライフサイエンス・イノベーション・エコシステムの成功の軌跡

湘南ヘルスイノベーションパーク (湘南アイパーク) は、企業発のサイエンスパークです。製薬企業のみならず、次世代医療、AI、ベンチャーキャピタル、行政など、幅広い業種や規模の産官学が結集し、エコシステムを形成することで、ヘルスイノベーションを加速する場となることを目指しています。

2020年6月9日(火)、湘南ヘルスイノベーションパークは、世界最大級のバイオ分野の展示会「BIO International Convention Digital 2020 (BIO DIGITAL) 」にて、「How an Innovation Ecosystem Enables Growth During Times of Crisis and Beyond (イノベーション・エコシステムはいかに成長をもたらすのか:パンデミック危機下とこれから)」と題するパネルディスカッションを主催し、藤本利夫(湘南ヘルスイノベーションパーク ジェネラルマネジャー)がモデレーターを務めました。本パネルディスカッションは、約300演題の中から、優れた20演題「Best of BIO」の1つとして選ばれました。

新型コロナウイルスの影響で、展示会に代わり、全面的にオンラインの展示会として開催されました。

3部に分かれたディスカッションの第1部では、「成功するライフサイエンス・イノベーション・エコシステムの軌跡」と題し、世界各地のイノベーション・センターを率いる下記の3名をスピーカーに迎え、それぞれの拠点がどのように発展していったかについてお話をうかがいました。

  • メアリー・ワルショック氏(カリフォルニア大学サンディエゴ校 公共プログラム副学長補兼エクステンション学部長)
  • マギー・オトゥール氏(ラボセントラル 最高執行責任者兼エグゼクティブ・バイスプレジデント)
  • シャロン・チャン氏(ジョンソン&ジョンソン JLABS上海 代表)

スピーカーの3名。左からウォルショック氏、オトゥール氏、チャン氏。

イノベーションを継続させるための三原則

―まず、イノベーション・エコシステムの専門家でおられるメアリー・ワルショックさんにお話をお伺いしたいと思います。サンディエゴの成功の鍵となった要素についてご説明いただけますか。

メアリー 私たちの成功は、以下の3つの原則で成り立っています。

まず、「オープン」であること。物理的に協力できる空間を設けるという意味もありますし、新しいアイデアやビジネスに強い関心がある、という意味でもあります。イノベーションに関心のある人たちの間で自由な会話が続けられ、財源や人脈を持つ人にアクセスしやすいことも重要です。試行錯誤を繰り返し、変化を追求するという意味でも、「オープン」である必要があります。成功のみならず、失敗についても語ることで、私たちは学び、前に進むことできるのです

二つ目は「人材」です。ここは実力社会で、スキルや評判、経験の方が、家柄や出自より重要となります。こういったオープンな空間では、才能のある人が成功しますし、アイデアのみならず、仕事や生活の仕方も多様です。たとえば、私たちのエコシステムは24時間空いていますが、日中ここで働く人もいれば、夜10時から朝5時に働く人もいます。なぜこのような流動性をもった空間であるべきかというと、どのような環境で最も才能を開花させられるか、それは人によって異なるからです。人がリスク許容度を高く持ち、互いを信頼し、失敗も許す場でなければなりません。また、イノベーションを続ける人材を維持し拡大するには、業績を出した人への報酬も必要だと思っています。

最後に、組織としての「ダイナミックさ」も重要です。オープンでフラットな組織の方が、指揮統制のある組織よりもイノベーションに向いているという調査も出ています。機敏にジャストインタイムで動くことができ、参加する人材のコンピテンシーを組み合わせ、人脈を広げ、コミュニケーションを密に取ることができる組織こそが、新しい機会をつかみ、悪い状況も好転させることができます。

―以前私に、すべてのエコシステムには独自の起源と歴史があるとおっしゃいましたね。サンディエゴの成功の特色はどういったものでしょうか。

メアリー 35年前、サンディエゴは経済危機に苦しんでいました。主な産業は観光、不動産開発、軍事でしたが、その三つすべてが衰退していました。しかし、今のサンディエゴは、世界有数のダイナミックな地域と言えると思います。ライフサイエンスのみならず、IT、環境、ソフトウェアなど、ライフサイエンスに貢献している多くのテクノロジーにおいても様々な交流が行われています。

サンディエゴのエコシステムは、上記の3つの原則をもとにコラボレーションに力を入れ、多様性と機会を、様々なスキルやリソースと組み合わせています。カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)が35年前に設立した「コネクト」という起業家のための非営利団体では、多くの講演や活動を設けて人々が互いの知識や人脈から学べるようにしている他、報酬や資金手当てに関するプログラムにも力を入れています。そこでは、特定のサイエンスを選ぶことなく、都市そのものをインキュベーターにしました。研究の場、リソース、そして人脈を提供していますが、起業家たちも共に働くだけでなく、空いた時間も一緒に過ごしたりして、人間関係を構築しています。

一つ忠告したいのは、組織やコミュニティが成功し、流れに身を任せてスケール(拡大)し官僚化してしまうと、失敗することが多いという点です。米国においても、革新的な都市や地域がイノベーションを継続せず、勢いを失ってしまった例がいくつかあります。

私を含めこのディスカッションに参加している皆さんは、最初に申し上げた三原則、つまり、オープンであること、人材を育成できること、そして機敏に動けるダイナミックな組織構造を持つという、エコシステム文化を守る「炎の番人(Keepers of the flames)」であると思っています。このようなカルチャーを守り進化させることにより、イノベーションを継続させ、持続させることができると考えています。

イノベーションを促進する都市

―次に、スタートアップ・ビジネスの専門家でおられるマギー・オトゥールさんにお話をお伺いしたいと思います。マギーさんが率いておられるラボセントラルは、ボストンで最も成功しているイノベーションとインキュベーションのラボです。これまでのラボセントラルの軌跡はどのようなものでしたか。

マギー 私たちは2012年に創設された、マサチューセッツ州のケンブリッジを拠点とする非営利団体です。2つの団体によって創設されましたが、一つがバイオラボ、もう一つがCICです。また、マサチューセッツ州からの助成金も受けています。私たちの使命は、ライフサイエンスに特化したスタートアップを支援することによって、新しい世代のバイオテック企業の設立につなげることです。そういったスタートアップにリソースや空間を提供し、彼らがインフラに割く経費を抑えられるようにしています。

2018年だけで、私たちが受領した資金(エンジェル投資、助成金、ベンチャーキャピタル、パートナシップを含む)は2億ドルを超えました。スタートアップ企業の大半は、ラボセントラルに来た当初、小規模の研究助成金やシリーズA、シードファイナンスなどをもらっていました。そして、ラボセントラルがインフラ支援を提供することにより、彼らは資金や時間、エネルギーなどを、成長に欠かせないリソースに割くことができたのです。2018年に私たちは、ベンチャーキャピタルによるシードファイナンスやシリーズAの投資額と言う意味で、3位のニューヨーク州に次ぎ、そして5位のニュージャージー州を抜いて、全米で4位となりました。

2018年には投資額で全米4位に

ビジョンを持つ起業家が働きやすい環境を整えるにあたり、透明性、適応性、施設のデザインなどに力を入れています。また、何にでも使える柔軟な空間や、いろいろな設備がある大きなラボを提供しています。ラボセントラルに来るスタートアップ企業は最初はとても小さく、1人から4人くらいしかスタッフがいないので、機器や空間や家具の購入に経費をかける必要がありません。そこで私たちが大きな空間と、共有できる様々な機器を提供するのです。彼らが成長したら、専用のスイートや事務室に移ることもできます。いろいろなプログラムやイベントもあるので、機器の使い方を学んだり、スポンサー企業と交流したりもできます。 スポンサー企業である製薬会社や医療機器の会社などは、私たちへの支援を通じて、バイオテックや研究開発における最新情報を知り、将来のパートナーシップを築くことを目指しています。私たちは、ラボセントラルを卒業したアラムナイ企業とも交流を続け、今度は彼らが初期段階のスタートアップを支援することを期待しています。

―ボストンはどのように世界でも有数のサイエンス・エコステムに発展したのでしょうか。

マギー ボストンは、複数の大学や研究病院があるという意味で、とてもユニークな都市だと思います。こういったテクノロジーのイノベーションがある場所だからこそ、私たちも、起業家の驚異的な成長を支援することができます。また、巨額のベンチャーキャピタル投資も、この地域の特色となっています。こういった要素がそろわなければ、私たちが今のような役割を果たすことはできなかったでしょう。

もう一つ、皆様があまりご存知ないであろう事実を申し上げると、ケンブリッジは、1977年に世界で初めて遺伝物質の操作を規制した都市です。そして、遺伝物質に関する研究をどのように開発し、安全な形で実施するかということに関し、企業に示す構造を設置したのです。川向こうのボストン含め、米国の他の地域は遺伝物質を専門とするビジネスの扱いに困っていました。しかし、インフラとテンプレートが設置されたケンブリッジでは、そういった企業も成長できたのです。こういった歴史を経て、ケンブリッジは今も起業家精神のあふれる都市なのだと思います。

ネットワークでつながるイノベーション・センター

―最後に、昨年開設されたばかりのJLABS 上海の代表でおられるシャロン・チャンさんにお話をお伺いしたいと思います。シャロンさん、JLABS の概要についてお話しいただけますか。

シャロン JLABS は、ジョンソン・エンド・ジョンソンが経営する、無条件で支援を行うインキュベーターです。つまり、起業家は、知的財産を手放すことなく科学の開発を続けることができます。私たちは、 コスト効率と資本効率がいいプラットフォームを提供し、アイデアを画期的なソリューションに変えられるよう、起業家を支援します。

JLABSは、世界有数のインキュベーターを世界各地に展開することを目標としています。2012年の創立以来、世界各地で13の施設が設立されました。イノベーターが画期的な科学を患者や消費者に届けられるよう、世界トップの科学を発見・促進することを目指しています。過去7年間で、650以上の会社がJLABS エコシステムに参加しましたが、その5つに1つは、ジョンソン・エンド・ジョンソンと何らかの取引やパートナーシップを結んでいます。

―シャロンさんのお招きで私もJLABS 上海の開会式に参加しましたが、既に様々な国から多くのスタートアップが参加していて、驚きました。ジョンソン・エンド・ジョンソンはどのように上海におけるイノベーションを支援しているのでしょうか。

シャロン JLABS 上海は、アジア太平洋における初のJLABS として、昨年開設されました。世界中のJLABS のネットワークにおいて、最大のキャパシティを誇ります。

ジョンソン・エンド・ジョンソンが最新の施設の場所として上海を選んだのは、急速に成長しているスタートアップのコミュニティがあり、イノベーションのホットスポットして高く評価されている大都市だからです。上海は、世界中の起業家が集まる主要なハブです。私たちは上海市と浦東新区からの支援もいただいていますし、今後もこの地域の皆様と協力し続けられると期待しています。

JLABS 上海では、資本設備、共有ラボや専有ラボ、付加価値のあるソリューション、運用サポート、教育、ビジネスサービスを提供しています。開設されて一年近くの間に、製薬、医療機器、コンシューマーヘルスケアなど、様々な部門の40以上の企業が参加してきました。そういった企業が扱っている内容も、腫瘍学、人工知能(AI)、感染症、微生物叢、整形外科学など、多岐にわたります。

参加者の70%以上が初めて起業した人々で、出身地も多様です。また、レジデント企業の15%が、女性のリーダーが率いるものです。レジデント企業は、1年未満で8000万ドル以上を調達し、一つはIPO(株式公開)を完了しています。私たちは、あらゆる段階で、参加者が学び、投資家と交流できるようにしています。これまでに55ものイベントを開催しましたが、そこにはのべ3500人以上が参加しました。

JLABS上海のレジデント企業に関する詳細

JLABS上海のレジデント企業に関する詳細

新型コロナウイルス感染症に関しては、世界各地のJLABS において、最初に影響を受けたのが上海にいる私たちでした。スタートアップの継続性を確保すべく、私たちは迅速かつ効率的に動けたと思いますし、そのことを誇りに思います。

私たちは今やほとんど通常どおりの営業に戻っており、レジデント企業の支援を続けています。今焦点を当てているのは、多額の資金がなくても迅速にビジネスを開始できるようにすること、ノウハウや人脈を築いてすぐにパートナーを獲得できるようにしておくこと、投資家等からの決断を早くもらえるようにすること、投資家により信頼してもらえるようにすることです

中国のスタートアップ・エコシステムは繁栄しています。私たちは今後も、イノベーターが科学を具体的な製品に変える過程に協力し、更にインパクトを拡大していきたいと思っています。私たちは、湘南アイパークをはじめとするパートナーとともに、地域のエコシステムの成長を促進し、ヘルスケアにおける次世代の画期的な解決策を支援し続けたいと思っています。

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