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2017年のASCO、Incyte社のIDO阻害剤epacadostat に大きな注目。

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はじめに

がん免疫療法において、Merck社、BMS社、Roche社の激しいレースは、ここ数年大きな関心を集めております。そのような中で、今年はがん免疫療法の他剤との併用療法が今後のがん治療市場に大きな影響を与えると思われる重要なトピックとなっております。その中でも注目が高い併用療法の1つが、PD-(L)1阻害剤とIDO阻害剤との併用療法です。今年6月に実施されるASCOの年次総会では、Incyte社のIDO阻害剤epacadostatの最新臨床結果の発表が俄然注目を集めることになりそうです。
トリプトファン代謝酵素の一つ。IDOは、トリプトファンを分解してT細胞の働きを抑える酵素で、免疫抑制に関わります。IDO阻害薬はこのIDOの働きを抑える薬剤であり、チェックポイント阻害薬との相乗効果が期待されています。

PD-(L)1阻害剤を牽引するキイトルーダ、オブジーボなどとの併用療法

Incyte社のIDO阻害剤epacadostatは、この相乗効果をはかるための数多くの臨床試験を実施しています。これらのパートナーには、Merck社(キイトルーダ / pembrolizumab、BMS社 / 小野薬品(オプジーボ / nivolumab)、そしてAstraZeneca社(durvalumab)などが含まれ、PD-(L)1阻害剤との併用投与の臨床試験が進められています。
Merck社のPD-1阻害剤KeytrudaとIncyte社のIDO阻害剤epacadostatの新しい学会抄録が今年のASCOに先駆けて発表されました。今回、発表された抄録によると、Keytrudaとepacadostatの併用は高い奏効率を示し、IDO阻害剤とIncyte社の地位も一層高まっています。

キイトルーダとの併用投与で複数癌腫で高い奏効率

Incyte社とMerck社は、現在、メラノーマ、膀胱がん、非小細胞肺がん、腎細胞がんおよび頭頸部がんを対象としてKeytrudaとepacadostatの併用を検討する第III相で広範に及ぶ後期共同開発プログラムが含まれています。5月17日(水)に公表されたASCO学会抄録では、ECHO-202/Keynote-037試験から抜粋した第I/II相試験データの一部が公開されています。この第I/II相データは、ピボタル試験でのIncyte社とMerck社の臨床戦略について情報提供するため用いられています。

非小細胞肺癌に対するセカンドライン治療として、Keytrudaとepacadostatの併用では全奏効率35%(14/40例、全例が部分奏効)という結果が示されました。また、発現レベルのカットオフ値を50%としたとき、PD-L1高発現例で43%、PD-L1低発現例で35%でした。免疫チェックポイント阻害剤の単剤療法ではセカンドラインにおける奏効率がおおよそ18~20%ですので、それよりも高い奏効率が示された形です。

腎細胞がんに対するセカンドライン治療では、奏効率が30%(9/30例:完全奏効が1例、部分奏効が8例)であり、「17~22%とされるPD-1阻害薬やチロシンキナーゼ阻害剤での奏効率を有意に上回る」とMorgan Stanleyのアナリストは指摘する。膀胱がんに対するセカンドライン治療では35%(13/37例:全例とも部分奏効、PD-(L)1阻害剤単剤療法で期待される奏効率である15~21%の2倍を実際に達成している。ベンチマークとしての15~21%は、FDAが承認した3つの薬剤クラス(Imfinzi、Opdivo, Tecentriq)が確立した値です。

頭頸部がんでは、KeytrudaおよびOpdivoが再発例を適応として承認を取得した際のピボタル試験で奏効率がそれぞれ13%と16%であったのと比較しても、Keytrudaとepacadostat併用時の奏効率は31%(11/36例:完全奏効2例、部分奏効9例)と高い効果を出しています。

Incyte社のIDO阻害剤epacadostat は、BMS社のOpdivoとの併用療法の臨床試験も実施されており、この臨床試験結果の最新データもASCOで発表されます。ASCOに先がけて発表された学会抄録では、第I/II相のECHO-204試験のデータが記載されています。 複数のがん腫を対象にBristol-Myers Squibb社のOpdivoとepacadostatの併用投与の結果、メラノーマでは、低用量のepacadostatを投与した8例のうち6例で部分奏効が得られ、頭頸部がん23例に対するepacadostatとOpdivoの併用投与では70%の病勢コントロール率が得られたと報告されており、こちらでも高い奏効率が得られています。

オブジーボとの臨床結果にアナリストも「圧倒的な説得力」と評価

Morgan Stanleyのアナリストは、Opdivoとepacadostat併用の抄録収載のデータには「圧倒的な説得力があり」、 Opdivoとの併用療法は「期待以上であり、主要ながん腫におけるベンチマークと比較しても相当良好な」結果を示したとしています。

PD-(L)1阻害剤については未知のポテンシャルがまだある中でのIDO阻害剤との併用療法での効果は新たながん治療の選択肢を広げる可能性が期待されます。これら複数のPD-(L)1阻害剤とのIDO阻害剤の併用療法での成果は、今後Incyte社が、IDO阻害剤開発競争を優位に進めるための差別化としても説得力があると述べています。

Roche社のPD-L1阻害剤TecentriqもIDO阻害剤との併用投与の臨床試験を実施している。 Roche社のPD-L1阻害剤Tecentriqと、NewLink社のIDO阻害剤GDC-0919の併用投与です。同臨床試験の結果として実施したに用量漸増試験データがありますが、複数のがん腫の患者45例において、TecentriqとGDC-0919との併用では奏効率が9%(全例とも部分奏効)とIncyte社のepacadostatよりも魅力に欠けています。 このことからもIDO阻害剤でのIncyte社の主導権はほぼ間違いなく強まったと言えるのではないでしょうか。

説得力にかける他のIDO阻害剤の併用投与

「NewLink社のデータは、epacadostatの結果と比較すると説得力に欠けるようだ」と、投資家への通知でJefferiesのアナリストが記している。Morgan Stanleyのアナリストは、このデータによりNewLink社のIncyte社に対する基本的な競争力が下がると述べ、Incyte社のepacadostatと比較してデータは「迫力に欠け、毒性も強い」ようだとしている。Bairdのアナリストはこれらの結果には慎重な姿勢を示し、「用量漸増試験パートのデータには、異質性が認められ(免疫浸潤細胞が多くみられる腫瘍と少ない腫瘍のいずれも含まれている)、前治療歴が多い患者集団(中央値は3回)が含まれているため、Incyte社のepacadostatとの比較が困難である」とも指摘をしている。

IDO阻害剤+PD-(L)1阻害剤、今後は?

最後にIncyte社の今回のデータに注目して、Barclaysのアナリストが、今後のがん治療市場への影響と効果を考察しています。「結果は、期待以上であったが、今回発表された治験データ、特にデータの中心となった非小細胞肺癌での治験データを見るだけで、今後の非小細胞肺癌に関してPD-(L)1阻害剤とIDO阻害剤の併用療法がどのように治療のレジュメンの中で最も活用される治療選択肢になるかはまだ難しい 」と主張しています。臨床データの比較対象としては、PD-(L)1阻害剤単剤療法のみならず、PD-(L)1阻害剤と化学療法、CTLA-4阻害剤との併用療法も考慮される必要があるでしょう。後者のCTLA-4阻害剤との比較では、IDO阻害剤の方が、毒性レベルが低いとみられ、学会抄録収載の新データでは、安全性の観点で予想外の望ましくない結果が明らかにされることはありませんでした。

同時に、Barclaysのアナリストは、がん免疫治療の併用療法との比較も高い関心をもってIDO阻害剤は注目されるとも述べています。 Opdivoとepacadostatの併用によって得られた初期データの奏効率が高く非常に印象的であったため、BMS社のOpdivoTM/Yervoyの併用療法で大きなインパクトをもたらしたメラノーマにおけるIncyte社のIDO阻害剤とPD-(L)1阻害剤に対する期待を一層後押しするものとみています。

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参照リンク

ViewPoints: Incyte emerges as clear winner from ASCO abstract dump
Bristol-Myers Squibb Research Showcases Expansive Oncology Clinical Development Program and Commitment to Exploring Novel Combinations at ASCO 2017
Data for KEYTRUDA® (pembrolizumab) Across 16 Types of Cancer from Merck’s Industry-Leading Immuno-Oncology Program to Be Presented at the 2017 ASCO Annual Meeting
切除不能悪性黒色腫(メラノーマ) 免疫チェックポイント阻害薬キイトルーダとIDO阻害薬epacadostatの第3相臨床試験
【特集記事】研究進む、免疫チェックポイント阻害薬

本記事は、「FirstWord Pharma」の記事をインサイト4が翻訳した一部です。Insights4プレミアムの「FirstWord Plusオプション」ご購入の方は、FirstWord Plus日本語タイトルと記事全文をご利用頂けます。