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【ホワイトペーパー】オバマケアのその後:2020年トランプ政権下での医療保険制度改革法の変化は?

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2020年は、新規規制や貿易協定の更新、地域特有の障壁、政治イベント等様々な出来事が予想され、医療機器メーカーに大きな影響を与えると予想されます。DRGでは特に影響が大きいとみられる以下の事象について、6回のシリーズに分けて解説をしていきます。第2回目となる今回は、米国における医療保険制度改革法(The Affordable Care Act)について解説します。

  1. 欧州の医療機器規則(MDR)
  2. Brexit
  3. アフォーダブル・ケア・アクト(米国)
  4. 米国・メキシコ・カナダ協定
  5. Ayushman Bharat Yojana(インドにおける医療サービス向上に向けたスキーム)
  6. 中国における障壁と展望

注:Brexitについては直近の情勢の変化により情報が最新のものではなくなったため、掲載を見送りさせて頂きます。

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医療保険制度改革法(The Affordable Care Act)

弱体化してもなお強さを維持

1965年のメディケア・メディケイド制度導入以来、米国で実施された最も大規模な医療制度改革は、患者保護並びに医療費負担適正化法(Patient Protection and Affordable Care Act)、通称オバマケア(ACA)です。ACAは2010年3月に署名され法律として成立しました。その主な目的は、特に低所得者に手頃な価格の医療保険を提供し、医療保険市場における消費者保護を強化し、米国の医療制度の質の向上と医療費(米国の医療費は他の先進国に比べ著しく高額です)を抑制するための医療提供におけるイノベーションを支援するものです。

ACAは連邦政府の規定を通じ、順守を推奨し違反を罰することでこれらの目標達成を狙っています。そのうち最も顕著で重要なものを以下に簡単に説明します。

● “Play or Pay”‐Employer Mandateとしても知られていますが、雇用主(従業員が50名未満の小規模企業を除く)は最低必要限の保険(MEC; minimum essential coverage)を従業員に提供する義務があり、これに違反した場合は一定の罰則が科されます。小規模企業に対しては従業員に対する一部の保険費用に充当するため税額控除がなされます。

● 保険加入の義務付け(individual mandate)‐米国市民および永住者にMECに加入することを義務付け、これに違反した者は毎月追徴税を支払う必要があります。

● 既存の疾患を除外する慣行の廃止により、既に何らかの疾患を有する患者に対し、保険会社が支払いを拒否する、または支払額を変更することを防ぎます。

● メディケイドの拡大提供‐メディケイドを連邦政府の設定した貧困線の 133%の所得までの国民に拡大することを目的としていました。しかしながら連邦最高裁は2012年、州はメディケイド提供の拡大を強要されるものではなく、そのような拡大は各州独自の裁量により実施すべきものだとの判決を下しました。条項には連邦政府がプログラムを拡大する州に対し2017年まで補助金を支給し、それ以降、補助金は年々次第に減額されると記されていました。

ACAの提供により、2016年までに保険非加入者数は半減し、メディケアおよびメディケイドの設立以来最も劇的な減少を見せました。さらに、連邦議会予算事務局(CBO; Congressional Budget Office)によると、ACA導入の費用にもかかわらず、結果的に予算赤字が削減され、総合的な医療費支出も最終的に減少しました。主に手術数の大幅な増加が見込まれることから、総合的に見て、ACAは医療機器市場に圧倒的にプラスの影響をもたらすものと予想されていました。

しかしながら2016年大統領選時、当時の候補ドナルド・トランプ氏は、この法によって国民に追加の費用が科され医療保険の選択が制限されていると主張し、ACAの撤廃と置き換えを主な選挙公約に掲げました。

制度の弱体化

2017年1月の就任以来、トランプ政権はACAの一部の規定の撤回をたびたび試みています。複数回に及ぶACAの撤廃と置き換えの試みもその例ですが、最終的に失敗に終わっています。それでも、これらの試みにより、保険料や費用負担額(コストシェアリング)の引き上げ、ACAの保障対象の縮小、または加入をより困難にするなど、政権はACAを大幅に弱体化させました。

こうした試みには、TV宣伝やその他の直接プログラムを含む、加入を促す宣伝活動の廃止や加入期間の短縮、加入の主要な手段であるHealthCare.gov サイトのダウンタイム時間導入と延長、加入アシスタントプログラムの廃止、一部の政府系ウェブサイトや情報源から申し込みに関する情報の削除などが含まれます。さらに、ACAの下で提供されるベネフィットの縮小のため多大な努力を払っています。例えば2017年10月、トランプ大統領は団体健康保険の要件の変更を求める大統領命令に署名しました。この命令に基づく新たな規制では団体健康保険制度(group plans)が保障すべきベネフィットの数が減らされることになり、それによって健康な個人がACAに加入できず、それ以外の、高リスクの個人と同じ高額保険料を要求されることになりかねません。

さらに2018年1月には、小規模団体(自営業者と中小企業)が共同で医療保険を購入することを認める、いわゆる“associated health plans”を強化する規則を発表しました。これによってMECの要件を回避することができます。さらに最近では、政権はMECの提供を要求されない短期的な保険プランへのアクセスを増やす規則を発令しました。これによってACA加入者数が減少し、保険料が増額される可能性があります。この他にも、保健福祉省(HHS)の生活困難による免除方針(hardship exemption policy)の拡大を受け、より多くの国民が保険加入の義務を免れることになりそうです。

これらはいずれもACAを弱体化させるための目立った試みであるものの、最も重要なのは、おそらく2017年12月20日に連邦議会で可決された税制改革法案(Tax Cuts and Jobs Act)でしょう。それは保険加入義務違反者に課される罰金をゼロにするもので、事実上個人の保険加入義務を撤廃するものです。

これに続いてACAに反対する訴訟が起きました。提起したのはいくつかの共和党の州の司法長官、 州知事、個人らで、保険加入義務が事実上撤廃されたことからACAは違憲であると主張しました。2012年、最高裁による同法順守の裁定は、税金徴収は議会の権限によるもので個人の保険加入義務(すなわちACA)は合憲との論議に基づくものであったが、もはやそのような罰金はないのだからこうした法律は違憲であるというのがその根拠でした。

2018年12月、テキサス州の連邦裁判所判事はこの主張を正当と受け入れ、原則的に個人の保険加入義務は憲法に反し、したがって法律全体を無効と宣言しました。この判定を受けACAは大幅に弱体化し、将来が危ういものとなりましたが、ただちに無効とはされませんでした。民主党の州のいくつかがこの判定に不服を申し立て、現在連邦控訴裁判所に対しACAを擁護する控訴プロセスが進行中です。このためこの件は再び最高裁で審議されることが広く予想されています。司法省は、先には既存疾患を有する個人を保護する条項の削除のみを唱えていたものの2019年3月には姿勢を変え、ACA自体の廃止を支持すると発表しています。

このプロセスには数か月あるいは数年を要する可能性があることから、この判定が最終的にACAにどのような影響を与えるかは明らかではありません。けれどもこの法律に対する国民の信頼は薄れ、2019年、2020年の加入にマイナス影響を及ぼすと予想するのが妥当であると思われます。

予想される影響

唯一明らかなのは、トランプ政権がACAへの攻撃を続け、とりわけ個人保険加入義務の撤回を試みることによって、加入と順守が相当の打撃を受けるであろうことです。CBOは保険加入義務の撤廃自体で、保険加入者数は1300万人減少、保険料は2027年までに最大10%増加すると予想しています。実際のところ、2017年に始まった減少傾向は続き、2019年の加入者数は前年の加入率に比べ、既に11%近く減少しています。加入の宣伝努力が削減され、保険加入義務の撤廃、前年に政権によって生み出された安価な保険プランが出回ったことが主な原因だと考えられています。しかしながら、これらの要因が加入率に影響を及ぼしたかどうか、ましてやそのインパクトの程度を、確信をもって評価するのは時期尚早といえます。

現時点で、医療機器市場に対する決定的な影響について自信を持って判断する十分な情報がありません。さらに、失業率の低下や新たに選出された下院議員によってもたらされた課題(下院は民主党が過半数を占めています)など、その他の要因によって、ACAが現在直面している課題から生じるマイナス影響が最終的に軽減されるかもしれません。これまでのところ、ACAは多くの課題にもかかわらず大方では無傷であるといえます。

とはいうものの、ACAの導入により、当時、保険非加入者数が大幅に減少したことを考えれば、トランプ政権のACA弱体化(及び撤廃)努力が保険非加入者数の増加につながることは容易に予測できます。これは医療(特に選択的治療)を求める患者数の減少、ひいては米国における手術数の減少につながりそうです。とはいえ、考えられるアウトカムとそれがもたらしうる影響は依然不明確であるため、さらなる司法、立法、行政上の動きがなければ、ACAは存在を維持することが想定されます。

重要な疑問

● 今後数年間で ACA保険料はどう変化するか?これが米国における手術数にどのような影響を与えうるか?

● トランプ政権はACAのさらなる弱体化に成功するか?あるいはそうした措置が市場を安定させ、図らずもACAの支持につながるか?

出典: 【ホワイトペーパー】2020年メディカルデバイス市場で注目するべき6つトピックス:医療保険制度改革法(The Affordable Care Act)

発行元:Decision Resources Group
発行日:2020年2月19日

この記事は、Decision Resources Japan株式会社が発行したオリジナル記事を承諾を得て掲載しております。

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