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【ホワイトペーパー】2020年メディカルデバイス市場で注目するべき6つトピックス:欧州医療機器規則(MDR)

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2020年は、新規規制や貿易協定の更新、地域特有の障壁、政治イベント等様々な出来事が予想され、医療機器メーカーに大きな影響を与えると予想されます。DRGでは特に影響が大きいとみられる以下の事象について、6回のシリーズに分けて解説をしていきます。

  1. 欧州の医療機器規則(MDR)
  2. Brexit
  3. アフォーダブル・ケア・アクト(米国)
  4. 米国・メキシコ・カナダ協定
  5. Ayushman Bharat Yojana(インドにおける医療サービス向上に向けたスキーム)
  6. 中国における障壁と展望

注:Brexitについては直近の情勢の変化により情報が最新のものではなくなったため、掲載を見送りさせて頂きます。

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欧州の医療機器規則(MDR)~安全性と有効性を改善、一方でコスト高、商品化の遅れ~

2017年5月、先に欧州理事会(EC)及び欧州議会によって承認された欧州医療機器規則(MDR)がいずれも施行され、移行期間を経て2020年5月より適用されることになりました。この規則は、1990年代初頭から施行されていた既存の医療機器指令(MDD)に見られるいくつかの弱点を補うために導入され、商品化されるすべての医療機器の安全性と有効性を高めることを主な目標としています。

以下でMDDの弱点について触れ、新たなMDR施行の経緯を述べ、予想される移行スケジュール、最も重要な変更点と予想される医療機器市場への影響を説明します。

MDDの問題点

1990年代初めに制定されたMDDは体外診断用医療機器指令及び能動埋込型医療機器指令、医療機器指令の3つの指令で構成されています。MDDは過去30年にわたってその目的を十分に果たし、欧州医療機器市場の成功において重要な役割を務めたとはいえ、以下に挙げるようないくつかの問題点もあり、技術革新の目覚ましい医療機器業界においては、やや効果に欠けると判断されました。

● 時代遅れの規則: MDDは医療機器領域、特に複合的な機器・製品および医療用ソフトウェアにおける技術開発(および技術開発により生じた規則上の課題)への対応が遅れています。
● 一貫性の欠如: MDDは規則ではなく指令であるため、各加盟国の国内法に優先するものではなく、その結果、各加盟国における導入状況は一律ではありませんでした。
● 市販後の成績ではなく承認に焦点が置かれているMDDの下では、承認後、医療機器の性能はとりわけ有益なまたは入手しやすい方法で追跡されておらず、継続的な臨床評価は義務付けられていませんでした。
● 説明責任が限定的医療機器の不具合や欠陥に対する賠償責任は正規製造業者のみにあり、部品の調達、製品の製造、流通、販売に至る一連の経路に関与する他の企業の責任は問われなかったため、医療機器の供給に関与した他の関係者の説明責任が欠如していました。
● 適合性評価機関(notified bodiesNB)に対する監視が不十分NBは1回限り・市販前審査と承認に焦点を置いており、製造業者の産業パートナーとして振る舞い、機器の安全性や品質よりも承認を重視しました。

2002年、Medical Device Expert Group (MDEG)はMDDのいくつかの弱点を特定する報告書を発行しました。中でも、MDDは医療機器の規制に関して適切な立法、法的根拠を示しているものの、その実施には、適合性評価の一貫性と信頼性、規制プロセスにおける一般的な透明性、市販後調査の実行を含め、多くの点で課題があることが明らかになりました。

この報告書を受け、臨床データの具体的な定義や適合性評価に関する追加の条文(expanded articles)を加えるなど、MDDに多くの修正が行われました。2010年、PIP社の胸部インプラント破裂事故の発覚、メタル対メタル(MOM)人工股関節インプラントの問題を受けて、欧州委員会には変更を求める圧力と規則改正を求める声が再び高まりました。最終的に、様々な協議と修正を経て、欧州委員会は2017年、新たな規則の文言を承認し、発表しました。

MDRは2020年5月に適用される予定です。MDDの下で2017年4月以前に発行された認証書は有効期間内、または適用日から最長2年間(2022年)、一方、2017年4月以降にMDDの下で発行された認証書は、有効期間内(最長5年間)、または適用日から最長4年間(2024年)有効であるという点にご留意ください。

主な変更と市場への影響

MDRは概して医療機器に相当する範囲を拡大し、EU各国において国内法および先の指令よりも優先され、一律の導入を意図したものです。これによってEU全域で医療機器に関する法的枠組みの統一が図れます。

指令と規則の相違点

MDRに示された最も重要な変更点の一つは、指令には法的拘束力がなく、各国の国内法令に組み込まれるため差異が生じたこと、その導入形態は各国の判断に委ねられていたのに対し、規則には法的拘束力があり施行時にEU各国すべてに適用されるという点です。とはいえ、各加盟国は国内市場を監視し、特定のハイリスク医療機器を禁止する余地が残されています。

  • 影響:新たな規則が加盟国の国内法令に優先されるため、この変更により、各国間の導入における一貫性の欠如が改善することが予想されます。このため企業は、数か国での製品ポートフォリオ管理が容易になります。とはいえ、EU加盟国はハイリスクの医療機器を禁止し、特別な登録を導入する権限を有しているため、特定の国々へのこうした医療機器の参入は一層困難となる可能性があります。

適合性評価機関(NB)

MDRの下で、NBはより厳格なガイドラインに従って任務を遂行します。NBは以前には産業パートナーとして活動していましたが、今後は適合性評価に加え厳しい審査を行います。MDRの下、NBは改めて認定を受ける必要があり、認定後は、非通知審査のほか、製造業者の品質管理と市販後調査システムの審査と評価を毎年実施する必要があります。NBはまた、高度な資格を持つスタッフなど、より厳格な要求事項を満たす必要があり、さらに、ハイリスク医療機器に対する臨床評価レポートの精査を専門委員会に要請する義務があります。

  • 影響:現在認定されているNBには、新たな資格要件を満たすことができないと思われるものも少なくないため、NB総数の減少が予想されます。さらに、認定プロセスはより厳しく、時間を要すると思われるため、特にMDR適用直後はおそらく 認定NB内での業務の遅れと、 認定NB数が限定されることからNBの医療機器評価の処理能力に支障が生じ、 商品化の遅れが予想されます。それでも、厳格なNBガイドラインは 最終的に安全で効果的で高品質の医療機器の誕生につながり、欧州市場に対する医師と患者の信頼感が強まるでしょう。

定義とクラス分類

新たな規則の下、「医療機器」の定義は広められ、埋込可能で侵襲性の機器、医療目的での使用を意図したソフトウェア、医療目的ではないけれども医療特性を持つ製品、医療機器の清浄、消毒、滅菌機器が含まれています。さらに「付属品」も、より広範なカテゴリーとなり、「機器の医学的機能を支援(補助)するもの」と定義されました。一方、「単回使用医療機器」は「1名の患者に対して1回使用されることを意図した機器」ではなく「1回の処置に使用されることを意図した機器」と定義されました。

  • 影響:クラス分類が変更される可能性のある製品や新たにMDRの範囲に加えられる製品があるため、これが最も重要な変更点といえます。MDRの適用の準備を進めている医療機器製造業者は、この変更によって自社製品のクラス分類、ひいては製品化戦略にも大きな影響が生じる可能性があり、注視しています。特にクラス分類が変更されれば、追加の臨床的エビデンスの収集またはCEマーキングの再申請、NBによる評価が要求される可能性があります。例えば、椎間板置換インプラントおよび脊柱と接触するその他の機器はクラスIIIに格上げされ、一方、粘膜を通じて体内に浸透する機器・器具はMDRでは「外科用侵襲機器」とみなされます。ハイリスクの医療機器は専門家によるEUレベルでの市販前評価が求められます。

規制監視の強化

MDDでは製造業者に5つの適合性評価ルートから選択することを認めていましたが、MDRには3つのルートしか含まれていません。さらに、同等性を示すための基準がより厳しくなり、技術的文書と臨床データの要件も強まりました。そのうえ、臨床評価と調査については、MDRは「1回限り・承認前」アプローチから「ライフサイクル」アプローチへの移行を推進しますが、これはすなわち製造業者は厳格な市販後調査計画を作成し、市販後の性能をフォローアップし、定期的に安全性報告書を作成し、新たな要件を満たした技術文書を提出する必要があるということです。ハイリスク機器の場合はとりわけ、同等性の根拠として利用できる症例数が少なく、クラスIIIの機器を用いた治験も開始前に適用国と倫理委員会による承認が必要です。また、クラスIIIおよび一部のクラスIIb機器の審査はEUレベルでの専門委員会が実施します。

  • 影響:MDRの適用後、既に商品化された医療機器が現在の地位を維持することは認められません。このため、すべての製造業者は既存、および開発中の医療機器がMDRに適合するよう、品質管理と機器に関する文書作成に多くの時間と資源を費やすことを強いられます。これは一定タイプの機器によっては商品化と開発費用の増大につながりかねません。さらに、企業は長期的な性能を継続的に評価するために、臨床評価を実施する必要があるため承認後の費用は上昇します。そのうえ、資格を持ったコンプライアンス専門家を見つけるのが難しい場合も考えられ、商品化に遅れが出ることも予想されます。

こうした課題は、ハイリスク医療機器の製造業者にとってはさらに深刻なものとなるでしょう。ハイリスク機器には、計画、治験、専門委員会の承認により多くの資源が必要になるためです。しかしながら、前述の変更点のいくつかとともに、商品化された機器の品質向上、欠陥や有害事象のリスクの低減の可能性があり、様々な医療機器に対する患者と医師の評価が高まりそうです。

説明責任メカニズムの拡大

MDRは、EU域外の製造業者に対しては欧州代理人(AR)の指名を義務付けています。代理人は、所轄官庁(CA)に技術文書及び関連の認証証明書等すべての必要書類を提出し、事故の報告をNB、CA、製造業者に対して行います。つまり、欧州外の製造業者にとってARは現地代理人とみなされ、欧州における法的責任を製造業者とともに負うことが要求されます。さらに、第三者医療機器再加工企業は、再加工を行った医療機器の安全性に完全に責任を負うことになります。

  • 影響:MDRの下では説明責任が高まることから、品質または書類上の懸念があった場合、ともに責任を負うARは製造業者からの委託関係の終了を望む場合が増える可能性があります。これにより医療機器参入が制限される可能性があるものの、商品化に成功した輸入機器の品質が改善される可能性もあります。また、第三者再加工企業数は減少するかもしれませんが、それによっていくつかの市場では安価な再加工機器を減らすことができそうです。ただ、再加工機器の規制が多くなると、それ以外の製品に対する信頼が高まり、機器の金額的な入手しやすさや総合的な採用が高まりそうです。最後に、MDRは、製造業者に潜在的な法的責任に関する十分な経済的補償を提供する手段を持つことを求めており、企業の保険料は上昇しそうです。

トレーサビリティと透明性

MDRの下での最も重要な変更点の一つは、固有機器識別子(UDI)システムをEU全域で使用することにより、市販後の安全性に関する活動の有効性を高め、偽造品の使用を阻止し、購買方針と在庫管理を改善し、電子カルテの強化を支援する点です。この方針の下、ハイリスク機器の製造業者はMDR適用日までに、その他のすべての機器もMDR適用日から5年以内に各機器のUDIが必要になります。これに加えて、製造業者は機器に関する全てのデータをUDIデータベースに提出することが義務付けられます。さらに、MDRは、異なる電子システムを統合し、特に医療機器、経済事業者、適合性評価、NB、認証、臨床試験、監視、市場調査に関する情報を照合し、処理するため、公にアクセス可能な欧州医療機器データベース(European Database on Medical Device (EUDAMED))の使用を求めています。適合性評価のための技術文書に安全性と臨床成績の概要などの文書を合わせて提出することが認められています。

  • 影響:UDIと一般公開されアクセスの容易なEUDAMEDを使用することは、EU全域で様々な医療機器に対する医師と患者の認識を後押しするうえで非常に重要です。また、有害事象または合併症に対する一般認識が向上し、医師や患者は、市販後のイベントに関するデータや情報を考慮して治療意思決定が行えます。さらに、MDRは「製品に関する機密情報」を除外するためにUDIデータベースを必要としているため、MDR適用を受け、欧州での特許申請件数が増加する可能性があります。

総合的なインパクト: より安全性の高い医療機器、透明性の向上、コスト増、商品化の遅れ

MDRに含まれる膨大な量の詳細を別にしても、新たな規制により、製造業者はコスト増、商品化の遅れ、市場からの機器取り下げに見舞われる可能性があるものの、最終的には、機器の安全性と有効性が高まり欧州医療機器市場を通じた透明性の向上につながるものと思われます。これこそがMDR策定の理由であったことを考えれば、さほど驚きには値しません。

とはいえ、こうした変更は、既存および今後参入を検討している欧州全域の市場関係者に深刻な課題をもたらします。MDRの下での運営の準備ができていないと感じている企業は少なくありません。特に小規模企業は、資源不足、あるいは時間的な制限によるものであれ、適用日までにMDRを順守できずに市場から締め出されてしまう可能性があります。このほか、適合に要する費用を上回る売上が確実に望める製品を優先するため、困難な戦略的決定を迫られる企業もありそうです。

世界的スケールで見た場合、世界の医療機器市場への参入ポイントとしての欧州の魅力度はMDRによって低下します。MDDの場合、欧州市場への参入は米国ほど困難でも高額でもないと考えられ、欧州は医療機器にとって確実な参入ポイントとみなされていました。しかしMDRの下では、これまでのトレンドは逆転し多国籍企業は、まず米国など他市場での製品発売を検討するかもしれません。

適用日: 確定か、変更の可能性はあるか?

最後に、MDR適用日までに欧州当局自体の導入準備が整うか否かは今も明確ではありません。例えば、2019年10月現在で、認定を受けたNBは5機関にすぎません(2019年末までに認定が見込まれるのは20機関未満)。こうしたNBの多くはすでに顧客企業からMDR順守に関する援助を求められ、膨大な業務量を報告しています。

さらに、MDR適用日までに企業がMDR順守できる能力について欧州全域で相当の懸念があります。2019年5月時点で、欧州委員会は順守を確実なものとするため、MDRを変更し、クラスIに該当する医療機器に4年間の移行期間を与えることを検討していました。ただしそのような延長が実際に導入されるかどうかは明確ではありません。

こうした感情は欧州の業界関係者のみならず、米国業界各社にも広がっています。2019年7月米国は、MDR適用をめぐる懸念を表明し欧州に3年間の延期の検討を求める文書をWTOの貿易の技術的障害に関する委員会(TBT)に送付しました。

結局のところ、MDRの導入を巡って、さらに企業、規制者、業界パートナーが2020年5月までに順守を確保できるかについては不確実性がかなり残されています。このため、これらの新しい規制が欧州の、ひいては世界の医療機器市場に及ぼしうる影響の程度は定かではありません。現時点で明確なのは、製造業者、NB、AR、その他の団体を問わず欧州の業界関係者すべてが、新たな規則の適用に向けて相当の投資を迫られており、これに従わなければ不適切とみなされ、多大な金銭的損失を被り、競争力を失いかねないという点です。

製造業者が取るべき次のステップ

  • 進行中のガイダンス文書の発表や法施行を監視し、情報に基づいた意思決定を行うために必要な情報をすべて収集する
  • ポートフォリオ評価を実施し、MDRの下、自社製品がどのようにクラス分類されるかを確認し、特定製品の売却や優先化が必要かどうかを検討する
  • 特に市販後調査および市販後臨床フォローアップのため、コンプライアンス計画の作成、品質管理システムの更新など、MDR要件に準じてプロセスや手順を更新する
  • 臨床データと技術文書の要件の乖離を排除するため、製品に関する文書を全て再検討する
  • 適切な適合性評価機関(NB)を特定、確保し、コンプライアンス計画を相談する
  • 製品発売後は、必要なすべての市販後システムと文書を用意し明確化する

重要な疑問

    • 医療機器製造業者と規制機関は 2020年5月の適用日までに十分な準備ができるか?
    • 順守を確保するための新規則適用の延期または猶予期間の要求に対し、EUは肯定的な反応を示すか?

出典: 医療機器市場:2020年に影響を与える6つの事象 ①欧州の医療機器規則(MDR)

発行元:Decision Resources Group
発行日:2020年1月11日

この記事は、Decision Resources Japan株式会社が発行したオリジナル記事を承諾を得て掲載しております。

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