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米国のバイオシミラー、フォーミュラリーの優先度引き上げで使用は広がるか|DRG海外レポート

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米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。バイオシミラーの普及が遅れている米国ですが、大手医療保険のユナイテッドヘルスが抗がん剤でバイオシミラーの優先度を引き上げるフォーミュラリーの見直しを行いました。使用は広がるのでしょうか。

抗がん剤 バイオシミラーを優先

医療保険大手のユナイテッドヘルスは今年10月1日から、各種保険プランの加入者向けに、抗がん剤「アバスチン」「ハーセプチン」の使用要件を追加した。その内容は、先発医薬品よりバイオシミラーを優先的に使うことを必須とするものだ。

「Mvasi」はアバスチン(一般名・ベバシズマブ)のバイオシミラーとして初めて米FDA(食品医薬品局)の承認を受けた。対象は▽結腸直腸がん▽肺がん▽脳腫瘍▽腎がん▽子宮頸がん――の5つ。

一方、ハーセプチン(トラスツズマブ)のバイオシミラーとして「Kanjinti」がFDAの承認を取得したのは今年6月。対象は▽HER2過剰発現の乳がん術後療法と転移性乳がん▽HER2過剰発現の転移性胃がんまたは胃食道接合部腺がん――で、先発品と同じだ。

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今回のユナイテッドヘルスの措置は、望ましい方向への第一歩であることは間違いない。抗がん剤は典型的な高額医薬品だからだ。先発品よりバイオシミラーの使用が優先されれば、競争が促され、コスト削減や患者アクセスの向上につながる。医療機関としても、費用対効果の高い治療薬を速やかに使用できる。

ロシュは打撃

今回のフォーミュラリー修正は、アムジェンにとってはメリットとなる一方、ロシュは打撃を受ける。バイオシミラーとの競争が激化すれば、ハーセプチン、アバスチン、そしてリツキサンの収益は落ちる。

これら3剤の売上高(2018年)は90億ドルに上り、ロシュの医療用医薬品全体のおよそ38%を占める(Decision Resources GroupのCompany and Drug data)。ロシュはバイオシミラーの侵食を6~7割とみているが、2018~23年の6年間で96億ドルの減益に直面する可能性がある。

状況は一変

アムジェンとアラガンは今年7月、アバスチンとハーセプチンのコピー製品の市場参入を妨げる裁判所命令を阻止し、両剤のバイオシミラーを先発品より15%安い価格で発売した。Kanjintiはハーセプチンのバイオシミラーとして米国で5番目に承認されたが、ほかの4剤(ファイザー、マイラン、テバ、サムスンバイオエピス)はロシュとの間で販売を延期する和解契約を結んでいる。フォーミュラリー修正も有利に働き、唯一積極進出の戦略をとったアムジェンのバイオシミラーは、結果として競争力が高まったと言える。

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保険者や専門医が、より安い治療オプションを選ぶのは当然のことだろう。OneOncology(米国のがん専門医250人からなる巨大ネットワーク)は、MvasiとKanjintiの購入と処方をすでに始めている。

ユナイテッドヘルスは、ノバルティスの「Zarxio」(アムジェンの好中球減少症治療薬「Neupogen」のバイオシミラー)の優先順位も引き上げた。Decision Resources GroupのFingertip formulary dataによると、ユナイテッドヘルスは全米の被保険者の36%に対してZarxioを優先的に保険適用している。

ほかの保険者も追随?

ただ、ユナイテッドヘルスは必ずしもバイオシミラーばかりを優先しているわけではない。今年7月にはアムジェンの「Neulasta」の優先順位を、バイオシミラーの「Fulphila」(マイラン)や「Udenyca」(コヒーラスバイオサイエンシズ)よりも上位に位置付けた。ほかにも、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)の「レミケード」をバイオシミラーである「Inflectra」と「Renflexis」より優先している。

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Decision Resources Groupの分析では、アバスチンとハーセプチンに関する使用要件の追加で影響を受ける可能性があるのは、ユナイテッドヘルスの民間保険と地域医療保険の各プランがカバーする2650万人。今年9月現在では、アバスチンもハーセプチンも患者の薬98%で保険が適用されているのに対し、KanjintiとMvasiは1%に満たない。フォーミュラリーの見直しにより、この状況は一変することになりそうだ。

ほかの保険者や政府系保険も、ユナイテッドヘルスの動きに刺激され、抗がん剤のバイオシミラーを保険適用の対象に含める可能性もある。

遅れていたバイオシミラーの承認と使用

米国ではこれまで、他国に比べてバイオシミラーの承認と使用が遅れていた。レミケードでは、2016年11月にファイザーが最初のバイオシミラーとなるInflectraを発売したが、2番手のRenflexis(サムスンバイオエピス)が承認されたのは2017年4月だった。J&Jによると、レミケードの米国売上高は2018年に19%減少したものの、今でも市場シェア92%でトップを保っている。

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2019年9月現在、レミケードは民間保険とメディケアプランの各フォーミュラリーでバイオシミラーより優先度が高く、全米の患者の約21%で保険適用されている。バイオシミラーの影響はさほど大きくはない。

InflectraとRenflexisにとっては、切り替えづらさが高いハードルとなった。いずれも、医師の許可がなければ薬局で切り替えることができない。自由に切り替えられるバイオシミラーがないため、レミケードの減収は最小限で済むということは、J&Jも認めている。加えて、保険者の多くはフォーミュラリーでバイオシミラーを制限し、リストをシンプルに保つと同時に、先発品の高いリベートを手放さないでいる。

そうした中、J&Jはバイオシミラーをめぐってファイザーと裁判で争っている。独占禁止法に基づいてファイザーがJ&Jを訴えたもので、ファイザーは「J&Jはバイオシミラーに対する保険者の払い戻しを違法に阻止する『biosimilar readiness plan』を実施した」と主張している。

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ファイザーによると、J&Jのプランは、バイオシミラーをフォーミュラリーから除外しなければリベートが支払われない、すなわちバイオシミラーでは「フェイルファスト」が前提条件という独占契約を結んでいたという。

米国では、バイオシミラーが先発品の売り上げに大きな打撃を与えるには至っていない。しかし、競争が始まっていることは確かだ。一部の試算では、バイオシミラーの普及によって向こう10年でおよそ540億ドルのコストが削減されると予測されている。つまり、今はまだ始まりに過ぎないのだ。

加えて、FDAは規制プロセスを円滑化するための「Biosimilars Action Plan」を導入した。これは、患者の治療選択肢を広げるポジティブな措置と言える。ユナイテッドヘルスの動きに大規模保険者が追随し、市場アクセス改善に向けた多面的戦略も実行されれば、バイオシミラーは今後、確実にシェアを伸ばしていくだろう。

(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら

この記事は、AnswersNewsが発行した以下のオリジナル記事を承諾を得て掲載しております。

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