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WHO必須医薬品リストの改訂が意味するもの|DRG海外レポート

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米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。今年、WHO(世界保健機関)の必須医薬品リストが改訂され、免疫療法薬や分子標的薬など価格の高いがん治療薬が重点的に追加されました。その意味するところは。

免疫療法薬など高額な抗がん剤がリストに追加

WHO(世界保健機関)が「必須医薬品・診断薬リスト」(WHO Essential Medicines List=EML)の改訂版を公表した。リストは1997年に初めて公表され、必要不可欠な医薬品を多くの人が入手できずにいるという事実を明確にするのに一役買ったという意味で、ヘルスケアに大きな変革をもたらした。以来、リストは2年ごとに改訂され、そのたびに新たな必須薬が追加されている。ただ、抗がん剤に限ってみると、更新の頻度はほかの領域に比べて低く、2015年を最後に大幅な見直しは行われていない。

WHOの必須医薬品委員会(Essential Medicines Committee)は、各国の政府、製薬会社、医師会、個人などからの提案を含め、外部からの情報や意見も参考にEMLの改訂を行う。リストに収載される医薬品は、有効性と安全性、そして対費用効果がエビデンスによって裏付けられているものでなければならない。

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今年改訂されたリストには450の医薬品が含まれており、専門家委員会は新たに28の成人用医薬品、23の小児用医薬品の追加と、すでにリストに含まれている26の医薬品の適応追加を提言した。これを受け、今年のリストには、がん治療薬、抗生物質、抗凝固薬、生物製剤とそれらのバイオシミラー、非感染性・感染性疾患の診断薬などが追加された。

2019年改訂のリストで注目すべき点は、高額な先進的抗がん剤が含まれたことだ。最近開発された悪性黒色腫に対する免疫療法薬、すなわちブリストル・マイヤーズスクイブの「オプジーボ」(一般名・ニボルマブ)とメルクの「キイトルーダ」(ペムブロリズマブ)は、生存率を大幅に向上させることから初めてリストに加えられた。

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さらに、「ベルケイド」(ボルテゾミブ、ミレニアム)や「レブラミド」(レナリドミド、セルジーン)、「Thalomid」(サリドマイド、同)、メルファランも、新規に診断された多発性骨髄腫の1次治療薬として追加。ジェネンテックの「タルセバ」(エルロチニブ)やベーリンガーインゲルハイムの「ジオトリフ」(アファチニブ)、アストラゼネカの「イレッサ」(ゲフィチニブ)も非小細胞肺がんの治療薬として追加された。ほかにも、前立腺がんや白血病の生存率を高めることが知られている3つの薬剤も新たにリストに加わっている。

抗がん剤が重点的に追加された理由

EML抗がん剤ワーキンググループ(EML Cancer Medicines Working Group:CMWG)は、EMLへの追加を提案された抗がん剤のスクリーニング基準を「全生存期間4~6カ月」とすることとし、専門家委員会はこれを支持。専門委はまた、治療的価値が期待される抗がん剤のスクリーニングに、ESMO(欧州臨床腫瘍学会)のMagnitude of Clinical Benefit Scale(SMO-MCBS:臨床利益定量スケール)を用いることが適切であると判断した。ESMO-MCBSスコアが「curative」でAまたはB、「non-curative」で4または5の薬剤は、リスト入りの候補となる。

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キイトルーダとオプジーボ、ロシュの「テセントリク」(アテゾリズマブ)は、非小細胞肺がん治療薬としては改訂版リストへの追加を却下された。その理由は、▽ベネフィットの大きさを推定し得る長期追跡データが不足していると判断されたこと▽治療上の位置付けが確立途上であること――というものだった。多発性硬化症治療薬「Ocrevus」(ocrelizumab、ジェネンテック)や、注意欠陥・多動性障害治療薬「リタリン」(メチルフェニデート、ノバルティス)もリストへの追加が却下されている。

WHOは、今年の改訂で抗がん剤をリストに加えることに従来以上に積極的だった。その理由として、がんの発症率と疾病負荷が世界的に増大しており、2018年の新規症例が世界で1700万例に上ったことが挙げられる。

年を経るにつれ、必須医薬品の選択プロセスはエビデンス重視の傾向が強まってきている。リストへの追加にあたって考慮される重要なパラメーターは▽疾病負荷▽公衆衛生上のニーズ▽臨床エビデンス▽費用対効果のエビデンス――など。検討の最終段階では、主にその薬剤の短期的・長期的有効性と費用対効果が、ほかの治療薬との比較において判断された。

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WHOの必須医薬品リストは、150を超える国で備蓄や処方・調剤の対象を決めるための指針になっている。それぞれの国は、WHOのリストをもとに、地域の疾病負荷やアンメットニーズに応じて医薬品の必須リストを作成する。地理的特性や人口、医療費といった条件が近い国では、必須医薬品リストも似たようなものになるだろう。

GDP(国内総生産)は、各国のリストに収載される医薬品の数に影響する。GDPが低い国ほど、リストは小規模なものになると考えるのが普通だが、例外もある。それは、疾病負荷や医療予算といった要因も各国のリストの決定に影響するためだ。例えば、スウェーデンはGDPが高い(1人あたり5万1200ドル)のにリストは少なく(薬剤数289)、インドはGDPが低くても(1人あたり7200ドル)リストは多い(薬剤数367)。そうした違いを生む要因としては、費用や有効性、罹患率、処方の合理性などが考えられる。

先進的抗がん剤を無理のない価格で提供

今年新たにWHOのリストに追加された高額な薬剤は、今後、各国の必須医薬品リストにも収載され、保険適用となる見込みが大きくなったと言える。そうなれば、現状ではそうした薬剤を購入できない患者も利用しやすくなる。

ただ、各国はWHOほど頻繁にリストを改訂しておらず、国別のリストはその国の疾病負荷、健康問題の優先度、価格の問題に左右される。改訂の頻度も国によって大きく異なり、例えばスウェーデンは2016年に改訂を行っているが、ブラジルでは2014年以降、改訂されていない。

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WHOが行うEMLの改訂では、健康関連課題の解決と価格設定の改善が目的とされ、効果の高い治療法が優先的に取り上げられる。WHOのリストでは、あらゆる国での保険適用を促すという視点から、患者への利益と経済性が強調される。

今年のリストは、生存率を向上させる先進的な抗がん剤を、無理のない価格で患者に提供することを可能にするという意図をもって、より重点的に追加した。このことは、がんなど生命を脅かす疾患の患者に対する良質な医療の提供と、医療資源の有効活用という成果につながるだろう。

(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら

出典: WHO必須医薬品リストの改訂が意味するもの|DRG海外レポート

発行元:AnswersNews
発行日:2019年10月4日

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